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■ 09・10(完結)

お化け屋敷の依頼から数日が経過した。
どうやらギルドが勝手に合同で依頼を受けたことをお偉方に知られ、ギルドが咎められた事をアンリエッタから知らされる。
まあ罰を受けるのは当たり前だろう。
受ける方で何かしらをギルドが勝手に決めるのは違反だし。
そうして居ると時たまメロウの姿が視界にちらつく。
ロー本人には会わないけど。
なぜだろうか。
会おうと思えば魔法の使い手である彼なら簡単だと聞いている。
行く町行く町に現れてはなんらかの跡を残していく。
アンリエッタはクスクスと笑って楽しげだ。
聞けば「わたくし達を困らせようとしている」と言うのだが、道中困ったことなどない。
彼女が弾いているだけかもしれんが。
それに対してロー達が忌々しいと罵っているらしい。
彼女は千里眼も健在なので見えている。
本当に万能だ。
また外に行って軽くウォーミングアップをしようと考えていると、目の前に突然トラファルガー・ロー氏が現れ滅茶苦茶驚いた。
普通、アンリエッタのところに現れないか、こういう人は。
こういう、自分に自信がある人は認めた人以外興味を抱かないし、どうでもいいと思っているのだと思っていた。
だから興味はあっても別に捨て置かれるだけだろうとこっちから興味を無くしたのは不味かったかもしれない。
目の前にいるということは自分の気持ちとは違うというわけだし。
何かしらの用があるらしい。
相手が話すのを待つというコマンドをひたすら選んで放置しておく。
が、なんの前触れもなく肩に触れられ鳥肌が立つ前に違う地面の上へ立っていた。
探偵と怪盗、またはその宿敵のような相関図が己の中にあった。
怪盗は普通探偵の気を引きたがるものだ。
脇役を利用でもして誘きだしたいのだろうと即座に分かった。

「驚いてなさそうだ」

「なんとなくそういうフラグが立ってたんで」

「ふらぐ?」

心底疑問をたゆらせ、それに答えないけどな。
敵に教えるものなどない。

「ドールの人形。お前には役立つてもらう」

簡潔に言うと相手は氷の弾を作り、リーシャへと放ってきた。
拳銃ではなく、パチンコ玉を飛ばす程度だがそれでも痛い。
この人遠慮というものや躊躇がない。
流石はメロウを隠れ蓑にし悪逆を行っているだけはある。
そこに何かしらの計画が見え隠れしているのだが、そうは物事は上手く運ばれないというものだ。

ーーパチパチ

「なにかの防御魔法か」

唯一の取り柄である健気で頑丈なシールド。
今己を取り巻くのはそれだけだから攻撃出来るわけもなく、ひたすら防御に徹する。
もしも、破られるという事がないようにローとは距離を取っておく。
どうにも男の魔法は協力だからシールドが砕けるなんてことになるのは避けたい。
どうやら後ろに崖があり、小さな石の欠片が崖に落ちる音が聞こえた。
落ちないように気をつけていたのだが、こういう時に限って運動べたな自分故に足をぐきり、と捻る。

――ブワッ

鳥肌が立った。
落ちる浮遊感とエレベーターのような体の臓器が浮く感じ。
ジェットコースターに乗ったときと同じだ。
どうしようもなく、ここで人生が終わるのだと漠然と理解した。
生憎と走馬灯というのもなかった。
死ぬ間際に感じるのは視覚情報だけだ。
ああ、もしかして彼は初めからそのつもりで連れてきたのだろうか。
乾いた笑いが溢れた。
アンリエッタを恨むつもりもない。
主役と繋がりのあるちょい役なんて死ぬ役目みたいなものだ。
これがストーリーならばもう諦める。
現実ならもっと諦める。
所詮人間、ちっぽけな小娘一人。
遺恨を残せるだけでも役に立てというわけか。

「弱すぎだろ」

腕が掴まれた。
そのまま引き寄せられて目をしばたかせた。
どうして掴んだのだろう。
突き落とせば済むのに。

「あんたには関係ないこと」

まさかこの姿勢のままやり取りするとは。
怯えが今のところ飛んでいて、ころされそうになったことはもうどうでも良かった。
そもそもこの男とやりあったら負けるのは分かり切っていたし。

「随分と強気だな」

スクッと正常な態勢に戻される。

「あんたのせいだけどね」

後ろが崖なのは変わらないが。

「猫被ってたか」

「被ってない人が世の中にどれくらいだと思ってんの?」

怒りは別段湧いてこない。

「どのくらいなんだ」

「自分で考えれば」

そう宣うとローは面白いと言いそうに口角を上げた。




あの突然崖方面へ連れていかれた日以来、何故か付きまとわれるのがアンリエッタではなくリーシャの方になってしまった。
特に気を引くためにいってしまった覚えはないのに。

「煽ると思わなくてもローは貴女を気に入ったわけね」

アンリエッタが訳知りがおで紅茶を飲んでいる。

「あれはつい。買い言葉で」

「生意気な口を聞く女程Sが入ったあの男を喜ばせるものはありませんわ」

「ぶ、ちょ、アンリ!Sとか言っちゃダメ」

ここはまだ外なのだ。
誰にも聞かれていない事を確かめる。
ふう、と聞かれていなかった事に安堵。

「もしそのトップに聞かれてたらどうするの」

あの男の耳や目がどこにあるか分からないのに。
あ、そっか、アンリエッタには分かるんだ。

「大丈夫よ。防音魔法もあります。読心術対策も」

それなら恐れることはないか。

「でも、物理的に来られたら無視も出来ませんわ」

ゆったりと紅茶を揺らして呟かれる。
どういう事だろうか。

「うふふ」

何故唐突に笑ったのだ。
疑心のつもりで彼女を見てもただただ笑みを浮かべていて面白がってるなと思う。

「あちら様が待ちくたびれてきましたわ」

紅茶を飲み干す彼女に習い最後を飲み込む。
折角良い茶葉なのに勿体ない。

「おれも混ぜろ」

乞う立場だろうに、上から目線な台詞を飛ばしてくるのはご存じ、メロウのリーダーにして裏の顔を持つ男。
当然アンリエッタもリーシャだって否。

「つれないな」

くく、と喉を鳴らす。
そんなに飲みたいのなら貴方のお仲間と飲めば良い。
喜んで共に飲んでくれるだろうね。
半ば適当に内心呟いているとこちらを向くのでサッと顔を斜め下に逃す。
目を合わしたらだめだ。
こういう時は関わらないに限る。

「お前もそう思わねェか」

話しかけられたが必要に駆られてないので答えぬ。
無視すればアンリエッタに向かざるをえないし。

「リーシャが嫌がっているからやめてくださる?」

「嫌がっている?そんなの分からねェだろ」

いや、めっちゃ嫌がってます。
目も合わせたくないくらい。
そのまま会話に持っていかれてくれと願う。

「お前の相棒に用がある。借りたいんだが」

「わたくしは私物を人に貸す趣味もありませんし、心が広くありませんの」

痛烈な嫌味だ。
前にローが人形と言っていたのを覚えている。

「………少しだけだ」

自覚したのか、特に気にしていないのか、一言だけぽつりと溢す。
彼らしくない言い方に首を傾げるものの、人権は自分のものなので例えアンリエッタが許可しても自分は付いてなんか行かない。
そのつもりはないとアンリエッタに強く目配せで伝えた。

「あらあら。フラれてしまいましたわよ、貴方」

クスクスと笑う声。
挑発をしているように見えるよ。
このままでは睨まれてしまうのではないかとビクビクする。
この前はあんな風に言ったのはあくまで命が掛かっていたからだ。

「お前からも直接聞きたいところだが」

ローがまたこちらを向くのでフルフル、と首を振る。
彼の手を煩わせて面倒にしたくない。
その一心だ。

「諦めたらどう?」

アンリエッタが嗜めても彼は立ち去らない。
面倒であり、粘着質な人だなと嫌な顔になる。
すると、彼は座っている椅子に手を寄せてリーシャの耳元に口を寄せた。

「また来る」

唖然とし見送るしか出来なかった。

「リーシャはフラグ建築士五級に昇進したわね。おめでとう」

紅茶も残っていないし、気力も残っておらず縁起が悪い事を、と唸る事しか出来そうになかった。



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