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「#エロ」のBL小説を読む
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■ 07

男を放置して屋敷を進むと扉が沢山あるのが面倒に感じてきた。
一々開けても埃臭い。
顔の前で目に入らぬ様に手をヒラヒラさせるとフワワワ、と透明だが何かが目に写ると顔を強ばらせる。
ホラーは苦手なのに。
震え始める身体にアンリエッタを呼ぶ。
あれ、隣に居たのに居ない。

「アンリ!アンリエッタ!?どこ!?」

必死に身体を回して辺りを見回すが見当たらない。
どこに行ったのだ、己を置いて。
怖がっているのを見ているのか、そうだとしたら可能性もある。
相当危険な魔物が居ないときにリーシャをつまみにしようとするのだから勘弁願いたい。
あわわ、アンリめ己、覚えておけよぉ。
そもそもこんなに怒るのはアンリが何があって何がないのかを分かっている上で退治をする為に動いていて、こうしている事も分かっているのに放置されているからだ。
アンリエッタは最強の人達の一人として世間でも言われているが、その通り。
何でも見通せてあり得ないことを次々起こせる人なのだ。
奇跡だって起こすし、その逆も然り。

「はぐれたのか」

その声音にピキピキと体が固まる。
これは男の声だ。
さっき聞いたキャスケット帽の男のものではない。
どう聞いてもメロウのトップである。
会いたくないが、声もかけられたくない。
怖いのもあるが、純粋に嫌なのに。
しかし、こちらの気持ちを察してもらえずに彼は話を続ける。
先程の質問に関しては尋ねたというより独り言みたいなものなのだろう。
初めから答えを期待されていないのだろうと判断し、彼を見ずに扉から離れて違う部屋へ行く。
全部を調べれば流石にアンリエッタでも見つかる筈。
しかし、願いに反してメロウの長が後ろから付いてくるのだから涙目である。
内心、多分弄ばれているのだと思う。
弱いものをネチネチ苛めるのが好きだとアンリエッタから聞いている。
実際に見てみた感想は、確かに情報通りだ。
それにして早歩きで移動しているのに付いてきている足音はゆっくり。
コンパスの差だ。
相手は男で長身な人だから、平凡極まりな自分とでは比べるのも馬鹿馬鹿しくなる。
後ろから付いてきているのは人であるから、幽霊とかでない分は幾分マシ。
歩みを進めていくと啜り泣く声が聞こえてきた様な気がして、ピタッと足を止める。

「お前と話したいんだが」

「!」

いきなり話しかけられても困る上に、唐突だったからびっくりした。

「は、話しかけないで」

片腕に手を添えて斜めに向きながら唱えた。
話しかけるなポーズ。
気まずい雰囲気を全面に押し出しておく。

「何故」

問われた。
話しかけて欲しくない理由なんて、そのまんまだというのに。

「しつこい人は嫌い」

控えめに言ってみた。
この人、怒ったらおっかないかもしれないし。

「しつこいかはこの短時間で分かると思えない」

リーシャがしつこいと思えばそれでしつこいのだが。
ローの倫理観を説明されてもな。

「付いてこないで」

「おれもこっちに用事があるだけだ」

この人確信犯な上に意地悪。
即座に理解して顔が強張る。
アンリエッタ、出てきてよ、と内心言う。
この人と居ると内面の怯えがバリバリに剥がされそうだ。

「お前、ドールとどういう関係だ」

貴方には関係ないです。
心の中で返答しておく。
声に出せば次々と質問してきそうだ。

「黙りかよ。別に良いが」

諦めてくれたのならラッキーだ。
歩みをまた再開させてこれ以上話しかけられないように距離を離そうと試みる。
足音は止まない。
どうしたものかと悩んでいると、また啜り泣く声が聞こえてきたので、こっちも面倒だと座り込みたくなる。
ガタガタと震え出す膝小僧のまま、ゆったりとした速度で前へ歩こうと気丈に奮い立たせていく。
そうでもしないと入り口にさえ行けそうにない。
今頼れるのは自分自身の他に居ないのだから。
ローなんて置物レベルでどうにかしてくれないだろうし。
アンリエッタの相棒と知られている中で、多分メロウの面々はこちらを吟味し観察しているのだと認識している。
でないと、わざわざ出刃ってここまで来て見に来ないだろうし。
メロウとは裏でも表でも大忙しで実力者として指名されまくってモテモテ、とアンリエッタが言っていたので暇でない筈。

「まさか震えてんのか」

そのまさかだよ。
一体どんな超人と思っていたのだろう。
知りたくないけど。
アンリエッタのような万人なら兎も角、平凡庶民にそんな人外的なものを求めないで欲しい。
このまま何も話さずにいようとしているのに、ローは次々質問を重ねてくる。
やれ、アンリエッタとはどういう知り合いだ、とか、お前は家名はあるのか、とか。
そんなことを知って一体なんになると言うのだろう。
怪しい事はさることながら、信用だってしていないのに、言えるか。
悪態を思い浮かべてはくだらないと思われるだろうし、うちに秘めておく。

「もしかして聞こえてないのか」

答える義理がないだけだ、と答えずに言う。
ローは何でもかんでも教えてもらえば教えてくれると思っている節が見受けられる。
それにしても悪役インテリだとは聞いていたが、力でものを言わせないのは意外だった。
ローと話してもないし、部屋を開けるので忙しい。
話し相手なら他の人にして欲しい。
さっきからどこからか分からないが風がヒューヒューと吹いていて、感じる。
古い建物だからどこか欠陥しているのかも。

「ガガガガガガガガガガガガ」

変な鳴き声と共に出てきたのは骨で出来た魔物。
ひっ、と悲鳴を上げて後退り扉から出る。

「アイスニードル」

ローの詠唱により氷の槍が空間から現れて骨の魔物に当たる。

――ドシュッ

――ガツン!

固いものが当たった音を背後で聞きながら次の扉を開けた。
倒してくれるんなら別に焦ることは無い。
きっと骨がバラバラになったという気がする。
骨が追ってこないのならそれで良い。
次の部屋――は?

「こんにちは」

ふんわりと笑う金髪の少女の人形。
もう一度言おう、人形、に、ににににに。

――パタン

同じような感じで扉を閉めた。



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