03
料理と酒と香水が充満する場所でローは隣に女を侍らせ酒を仰ぐ。
そうしていると、もう一つ隣に座るペンギンが尋ねてきた。
「船長、見つかったのか?」
わかっている答えを聞いてくるペンギンにローはその口元を弧に上げ上機嫌を表す。
「もう会ってきた」
「早いな」
「それに越したことはねェだろ?」
そんなことを言われてしまえばもうペンギンは何も言おうとはしなかった。
「ねェ、ローさん。今日は泊まっていくかしら?」
店の一番人気の女が媚びるように腕を絡めて顔を近づけてくる。
しかし、ローは済んでの位置で女の唇をやんわりと押し止めた。
「‘キス’はしねェ主義なんだよ」
「あらローさんって本命がいるの?」
押し止めたことに文句は言わず、からかうようにルージュの艶めく口元を妖艶に曲げる女にこちらも笑みを向ける。
「そうだ。本命‘だけ’にしかしねェ」
そう言うと女は少し驚き、そして再び元の表情になると「羨ましい限りね」と近くに置いてあったチョコレートを一つ口に入れた。
***
「シスター!」
パタパタと忙しなく走り寄る子供達に注意をする。
「危ないので走ってはいけませんよ」
「はーい!」
聞き分けがよい分すぐに言ったことを忘れるからリーシャもきつくは言わない。
そうして、やんわりと事が済むと子供達はいつもとは違うような雰囲気でいきり立つ。
「熊!シスター熊がいる!」
「熊?野生のですか?」
そうだとすればこんなにのんびりとしているわけにはいかないと思ったリーシャは猟師を呼びに行かなければ、と呟く。
「野生じゃないよ!服着てるし喋るんだ!」
「シスターも早く来て来て!」
興奮が冷めない様子の子供と、その言葉に疑問を残したまま手を引っ張られリーシャは教会の外へ行く。
(一体なんだというの……?)
いざ外へ出てその光景を目にすれば、子供の興奮する理由がすぐに理解できた。
「熊熊〜!」
「遊んでー!」
「わっ、順番ずつ!あ、毛を引っ張るなって!」
そこには確かに二足歩行で服を着ていて、喋る熊が子供達に囲まれていた。
その近くには熊と同じ服――ツナギを来た二人の男性もいてリーシャは声を掛ける。
「すみません、もしかしてご迷惑をおかけしてしまいましたでしょうか」
子供達が修道服にしがみついたままリーシャが二人に問い掛ければ、少し驚いたように二人はお互い目配せをした。
「いや、別にたいしたことではない」
「そうそう、むしろ怖がられるよりまだマシだな!」
キャスケット帽子とペンギンと書かれた帽子を被った二人はこちらの目から見るとあの白い熊の友人だろうと考えた。
そして、本当にそうだったようで二人は返事を返してくれ安心する。
「もしよければ紅茶はいかがですか?」
「え、あー」
「もらおう」
「あ、ちょ!ペンギンいいのかよ!?」
「別に断る理由なんてないだろ」
「違ェーよ!もしこのことがあの人にっ」
「シャチ、少しは口を慎め」
「なにィっ!?あ」
今にも喧嘩が始まりそうだったがキャスケット帽子を被った男性がリーシャの視線に気づくと恥ずかしそうに頬をポリポリと掻いた。
「ふふ……ではこちらにどうぞ」
その様子に可笑しくなり、笑みを漏らしながら教会の扉を開ければ二人は中へと入った。
「どうぞ」
「ありがとう!」
ニコニコと嬉しそうに笑う白熊――ベポは出された紅茶の香りをヒクヒクと嗅ぐ。
「お菓子まですまない」
「上手いなこれ」
キャスケット帽子のシャチとペンギンロゴの入った帽子を被るペンギンが口々にリーシャの出した茶菓子を食べる。
先程二人に中で紅茶をと誘った時にベポが「お、俺も行く!」と子供の悪戯から逃げる為の避難をし、同じく席を共にした。
白熊とお茶が出来るなど夢にも思わなかったリーシャは薄く笑い内心喜びを感じていた。
「皆さんはどうやってこの町に?」
「え」
「船で来た」
答えあぐねたようなシャチに対し、ペンギンは坦々と答えた。
「ではログが溜まるのはすぐですね」
「明日には溜まる」
「すぐ出航するかは船長次第だな」
シャチの言葉に少し残念そうに声を漏らすベポ。
「もうかぁ……もっとここにいたいな」
「そんな風に思ってもらえるだけでも十分嬉しいです」
ふふふ、と聖女のような微笑みに三人は心が洗われるような気持ちになり少しの間息をするのを忘れる。
そんなことに気づかないリーシャはゆっくりと紅茶を嗜む。
「運命は導かれますよ」
ふわりと風が流れるようにリーシャは三人に言葉を送った。
***
まだ一度も会ったことのなかった――いや、会うことを許さなかったあの人がやっと許可をした夕方、彼女に会いに言った。
シャチとベポも連れて。
別に一人で行こうなどと考えてはいなかったがどうしても行きたいと駄々をこねる二人を仕方なく連れて行くことにした。
それに自分一人では会いにくかったのもある。
そうして三人で会って見れば予想外に彼女──リーシャは清楚な女性だった。
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