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- ナノ -
 
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簡素で動きやすい服を来て、町で買物を済ませるとカフェのテラスで一休みを挟んだ。
人が行き交う風景をぼんやりと眺めていると横からカタン、と音がした。

「……たくさんテーブルは空いていますよ」

「クク……俺はここに座りたかったから座っただけだ」

屁理屈とも横暴とも取れる事を言う男に反論する気持ちが無くなり溜息をつく。
シスターとしても一般市民としても決して馴れ合うことはないだろう海賊の長である男に対して、既に諦めの感情がセットになっている。
言っても無駄、咎めても無意味。
海賊である人間に人徳を説こうとは思わないが、しかしトラファルガー・ローの考えている事が分からなくて困惑していることは確かだ。
今も正面に居座る行動やリーシャに近付く理由も貞かではない。
ローはコーヒーというイメージが合う通り注文していた。
海賊とコーヒーはとても合わないが、ローとコーヒーなら自然と合う気がする。
ちらりと飲む姿を見遣り再び人が行き交う道を眺めた。
と、不意に彼が質問してきたので目を合わせる。

「シスターも私服を着るのか?」

「私は生まれながらの修道女ではないですし、価値観が他の方とは違うだけなので、一概にそうというわけではありません」

「丁寧に返されるとは予想外だ」

「貴方が聞いたのですよ」

「そうだな。でもお前は俺の事が嫌いだからあんまり話さねェのかと思ってた」

リーシャはローの言葉の意味に一瞬呆気に取られた。
あんなに追い回すように教会を捜し当てて見つけ出す行為を重ねてきたのはそっちなのに、今更何を言うのか。
それ以上に、海賊が一人の力無い修道女相手に嫌われる事を考えていることに驚いた。
リーシャが密かに目を見開いて相手を見ていると彼はフッと口元を緩く上げて二度目の質問をしてくる。

「この町は好きか?」

「今まで住んできた町も好きですから決められません」

「そう答えると思ってた」

ローは嬉しそうに見つめてきたので一瞬疑問が脳裏を掠めた。
何故答えを予期出来たのかと。
その答えを知る術が目の前にあったのに喉から声が出なかった。
聞くにはまだ早いと本能が感じ取っていたのかもしれない。
ローも答えを言うことはしなかった代わりに違う話を持ち込んできた。

明白な事実は時として知らない方が良いこともあると、記憶に残る声が囁いた。


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