02
リーシャはローと同じ年たが彼氏すらいない。
困った事態だと焦らなくてはいけない事だとは思ってはいるがいかせん出会いがなかった。
また、ため息をつく。
(私だって結婚したいわよ)
虚しい気持ちが胸を支配する。
情熱的な恋をしたい。
昔から願っている思いだが現実はせちがらいものだった。
(人生は甘くないのね……)
なぜまだ若いはずの年齢でこんな事を思わなくてはいけないのだろう。
リーシャはもう嫌になりそうな気持ちになった。
(明日は遅くまで残って土曜日にのんびりと過ごそう……)
音楽の成績を付けるのには持って来いだ。
リーシャはそう明日の予定を組み終わるとピアノをポロンと一つ鳴らした。
――翌日予定通りに音楽室で仕事をしていたリーシャ。
そんな時、ケイタがいつものようにやってきた。
「先生ー聞いて!」
「どうしたの?」
興奮の冷めぬ様子の生徒に尋ねればケイタは顔を最高潮に綻ばせた。
「パパがね迎えに来てくれるの!」
「?……パパなら毎日迎えに来てくれてるじゃない?」
「えー?あれパパじゃないよ!ローは伯父ちゃんだよ?」
「お、伯父ちゃん?え!パパってトラファルガーさんじゃないの!?」
「うん?ローはパパが忙しいから代わりに迎えに来てくれてるんだよ」
(そんな事ありなの!?私の勘違い?嘘……)
「先生?……もしかしてローの事好きになった?」
「え!な、何言ってるの!」
ケイタが冷やかしを浴びせてくる事に慌てる。
「ケイタ、迎えに来たぞ」
タイミングが良いのか悪いのか、ローとは全く違う声音でこの子の名前が呼ばれる。
「パパ!」
「良い子にしてたか?」
「もちろんだよ!だってパパが来たんだもん!」
「そうか……あ、ご迷惑をかけてすいませんでした……」
「いえ。あの……ケイタくんのお父さんに初めてお目にかかれて嬉しいです……」
「え?ああ。ローがいつも迎えに行ってくれてましたしね」
「はい……」
「先生、先生」
「ん?」
ケイタが耳元を招くようにチョイチョイと手を近付ける。
「ローね、未婚だよ。あとね彼女もいないからね」
「み!って何言ってんの……!私は別に――」
「パパ帰ろ」
ケイタは言うだけ言って父親と帰っていく。
リーシャは、ただただ口をパクパクとするしかできなかった。
「だから、私は……」
もう誰もいない空間で呟く。
もうどうしたらいいかわからなくなり仕事に戻る事にした。
しかし、ケイタの言葉やローの素性を知った脳は内容を入れようとしない。
悶々と考えているうちに、夕日はとっくに沈んでいた。
「あーあ……私って効率悪いなぁ」
不甲斐ない自分に落ち込んでいると突然音楽室の扉が開く音がした。
バッと反射的に振り返るとそこには――。
「トラファルガーさん……?」
夜分遅い、都まではいなかないが夕刻を過ぎた時間に来た人物に首を傾げた。
「どうしたんです?ケイタくんなら帰りましたよ?」
「先生に会いに来たんで構いません」
「……なっ!え!」
ローの言葉に羞恥心で顔が赤くなる。
ストレート過ぎる物言いは勘違いという気持ちを起こさせる暇を与えない。
「先生……いや、リーシャさん」
「え、あのっ!」
いきなり迫ってきたロー。
ピアノの椅子に成り行きで座ってしまう。
カツカツと靴音を響かせてリーシャの逃げ道を塞ぐ。
「脈ありって思ってたけど、とんだ落とし穴もあったものだ」
「え?落とし穴?脈あり?」
次々と、まるで新しい単語を聞いた様な気持ちになる。
しかもいつも聞いていた口調や雰囲気が全く違うローに内心戸惑う。
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