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「武装した用心棒なんか連れてどうするつもりだ?」
「無論、そなた等がいつでも来るように持て成そうと思ってのお」
「来る理由がわかってる上でそう言ってんのか?」
「そう……勇者を使って魔法使いをたぶらかす事は許される」
「そんな勝手な!」
リーシャが身勝手さを責めるとハンコックはスッと立ち上がり真っ直ぐこちらを見た。
「勝手でも何でも許される。何故なら……わらわが美しいから!」
バーンと効果音よろしくハンコックは言い切る。
これにはローもリーシャも絶句した。
シャチとペンギンは女帝を羨望の眼差しで見る。
気を確かにと二人に言いなかったが美人で麗しい人間のプライドは摩天楼よりも壮大そうだ。
確かにハンコックが望めば何もかもが我が物となる。
しかし、リーシャはどうしてもわからなかった。
「私達は争いをする為にこの部屋に来たんじゃありません。ただ、どうしても貴女の気持ちが理解出来なかったんです」
「わらわの気持ちとはなんじゃ」
「どうしてローさんを狙ったんですか?」
「それは、あれが試練だからよ」
右側にいた緑髪の女性が答えた。
「あれが試練?」
「人間なんて自分が有益になる事しか考えないもの、それを試したの」
「そして、貴方達は試練を合格した」
今度は左側にいるオレンジ髪の女性が口を開いた。
リーシャは二人の言葉に至極驚く。
知らない間に試練が行われていて尚且つ合格した。
それは、つまるところ――。
「これにてクリスタルを継承する」
ハンコックは事の成り行きを引き継いだ。
彼女が手を翳せばリーシャの目の前にクリスタルが現れた。
ひた、と掴めば重力を無くす固体。
最後のクリスタルが手に入り伏魔殿の地図が今揃った。
リーシャはまだ実感が湧かない気持ちでハンコックを見る。
「わらわの頼みを聞いてほしい」
「そんな事っ」
ベポが反論するのをリーシャは制した。
とても軽い気持ちで頼んでいるようには見えなかったのだ。
氷の門番に「それは、何ですか?」と問えば彼女は重い口を開く。
「わらわは……わらわ達はずっと重荷を背負ってきた。途方もない時間も全て」
ハンコックは険しい表情で内情を話す。
「それをどうか解き放ってほしいのじゃ。もう、わらわは誰にも縛られとうない……!」
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