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何だ何だと理解できない内にハンコックはリーシャに突然愚痴を言い始めた。
「あやつ、わらわの美しさにクラリともせんかった。更に誘いまで断るとは……!この屈辱をどう晴らしてやろうぞ……とわらわは思ったのじゃ」
「え、あ、はい……」
「そこで主を使って復讐する事に決めた」
「復讐?」
リーシャが何の事だかさっぱりわからないままハンコックが話終える。
すると女帝は勇者に手を翳し何かを呟いた。
その後の記憶がぷっつりと途切れ、いつの間にかローの目の前にいたというわけだ。
全貌を喋り終えたリーシャにローは頭を軽くかいた。
「つまり、操られてたっつー事か」
ローはリーシャが説明する前にベポ達三人を一つの部屋に呼び寄せた。
後からバラバラに話すのが面倒だという理由だそうだ。
彼によれば自分は部屋に来てローにキスをねだったらしい。
これはローとリーシャだけの秘密だとシャチ達にはその下りを省いてくれた。
全ての事情を聞いた三人は信じられない面持ちで二人を見る。
ボア・ハンコックは見るも麗しい女性で。
復讐なんて陳腐な真似をせずとも世の中の男が夢中になる美貌だ。
立っていれば寄って来るだろう。
リーシャはそれでも抗議しに行くべきだと立ち上がる。
ローを誘惑してしまった羞恥心をどうしてくれるのだと怒りたくなった。
いくらリーシャでも今回ばかりは許せない。
ローに、ローにキスをねだったのだから!
普段の自分には到底出来ない誘い文句を知らない間に口にしていたなんて恥ずかしい。
リーシャが先頭を切りハンコックがいるであろう場所に向かう。
ローが自室にいるかもしれないと予想をつけたのだ。
何故知っているのかと聞けば呼び出されたそうで、驚く。
そういえばハンコックは愚痴を漏らした事を思い出す。
もしかして全てローに対しての事だったのか。
「頼もー!」
道場破りの真似事をしたのは良いが入った途端に後悔した。
ハンコックは確かに天蓋付きのベッドに大蛇を椅子にして座っていたのだが、その両端にお手洗いを教えてくれた大柄な緑髪で蛇舌の女性と初めて見るオレンジ髪のふくよかな女性が武器を持って佇んでいたのだ。
「威圧感が……!」
目を閉じたくなる三人の風格。
ローが低い声で威嚇した。
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