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ローが聞くとリーシャは一瞬目を見張ってコクッと頷いた。
ゆっくりと手を背中と頭に回してギュッと力を軽く入れる。
するとリーシャも背中に手を回してきた。
こんなにも脆く儚い存在が重いものを背負っているのが信じられない。
「ローさん、私にキスして」
「なっ」
ローは突然の発言に声を詰まらせる。
「軽い気持ち、なんかじゃないから……お願い……ローさん」
リーシャの濡れた唇がローの視線を誘う。
ごくりと無意識に生唾を飲み込む。
そっと手を彼女の頬に添えると潤む双眼は瞼を降ろした。
そして――。
「できるわけねェよ。バーカ」
「いたっ」
ローは悪戯に笑みを浮かべるとリーシャの額にデコピンを送る。
一拍置いて彼女はパシパシと目をしばたいた。
そうすると顔を右と左に上と下に移動させ最後にローを見た。
「なんでここにローさんがいんの?」
キョトりと首を傾げる勇者に今度はローが首を傾げる番になる。
「は?」
「え?何々?なんか……数分間の記憶がごっそり抜け落ちてるよーな……」
「は、お前……」
ローは呆気に取られ、もしやと可能性を考えた。
こんな所業を行えるのはただ一人しか思い浮かばない。
リーシャはちんぷんかんぷんだと頭を揺らす。
「なんか、ぼんやりとだけど……誰かが――ボア・ハンコックさん!」
リーシャは思い出したとばかりに手を叩く。
***
事の次第はリーシャが部屋に入って数分後。
トイレに行きたくなった為、扉を数ミリ開けた所で足音が聞こえ何となく隙間から覗いた。
そこにはマーガレットとローがいるではないかと驚く。
暫く二人が廊下を歩き去るのを見ていたリーシャ。少し心配になったが今はトイレが最優先だった為、後でローの部屋を尋ねようと外へ出た。
人気を探し歩いていると物凄く長身の女性が立っていたのでお手洗いの場所を聞く。
緑の髪色に蛇のような舌をしていたが見なかった事にした。
この女性もマーガレットと似た様な装いをしていたが寒そうに見えなかったのが不思議だ。
無事にお手洗いから帰って部屋に入ると何故かローに氷の女帝と呼ばれていたボア・ハンコックが不機嫌な様子で居座っていた。
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