×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
 
85


「わらわと貴様が手を組めば叶わぬ事ではあるまい。どうじゃ?悪い話ではなかろう」

「確かにな」



ローはくつりと喉で笑うとハンコックから離れた。
コツリと自身の靴が氷の床に音を立てる。



「だが断る」

「ほぉ、断るとな」

「生憎そんな野望には興味がないんでね」



ローが笑えばハンコックは目を細めた。
この表情は番人達が自分に向ける顔だ。



「本当に良いのか?のぉ……――よ」



ハンコックの紡いだ言葉はローの耳には入らなかった。
聞く価値もない、言う価値もない。
くだらない戯れ事は懲り懲りだった。



「己が一番感じているのであろう、魔法使い」

「さァな」



ハンコックはそれ以上話さなかった。
ローも聞くつもりがなかったので相手に背を向けた。
足早にハンコックがいる部屋を出ると自分の部屋に入る。
誰にも気付かれなかったかと周りをよく観察していなかったローはため息をついた。



「本当に、どいつもこいつもくだらねェ話しをしやがって……」



苛立ちと共に吐き出した言葉は空気に溶ける。
その時、またもや扉を叩く音がしたので顔を動かした。



「ローさん」

「!」



間違いなくリーシャ本人の声に驚いた。
ローはガラになく困惑しつつも扉を開ける。
そこにはいつもの様に元気な表情を浮かべる彼女がいなかった。



「どうした?」



とりあえず部屋に入るように足すとリーシャはすんなり足を踏み入れた。
椅子に座るよう誘導すれば首を横に振る。



「隣に座ってもいい?」

「ああ」



あまりに覇気がないリーシャにローは断れなかった。
一体どうしたのだろうか?



「あのね、さっきどこ行ってたの?」

「見てたのか?」

「うん。マーガレットさんと一緒に出ていくところを」

「そうか……ただ氷の番人に呼び出されただけだ」



ローが簡潔に言えばリーシャは「そっか……」と言うだけ。



「部屋にいる間に私考えちゃったんだよね。旅が終わるのが近付いてるんだなぁ、って……」



リーシャは苦く笑う。



「そう思ったら皆と別れる日も近いんだよね……」

「リーシャ……」



ローは抱きしめたくなった。
だが無節操に触れて良いものかと手が動かない。



「どうしたの?」

「触れて、いいか?」



prev next
[ back ] bkm