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「お前達はもう少し遠慮をしろ」
「気にしなくていいですよ」
女の人がコーヒーをテーブルに並べながら笑う。
全員が席に座ると軽い自己紹介を始めた。
この温厚な女性の名はノエルと言うらしい。
ノエルはリーシャ達に色んな事を教えてくれた。
「雷と雨が年中ずっと?」
「はい、昔からたまに収まったりはしていたのですが、最近になって激しくなって……」
話を聞けば、彼女には深い深い事情があった。
まだ魔王に目を付けられてはいないが、この場所には年中無休で雷が鳴っているらしい。
「だからこんなに遠い孤立した所に住んでるのか」
「はい……まだ被害は少ないので……」
ローは何やら考え込むように腕を抱えた。
「ローさんの魔法でどうにかならないの?」
リーシャは名案だとローに持ち掛ける。
だが、ローは渋い表情で首を横に振った。
「無理だな。この雷は自然にできたものでもあるが、意図的に起こされている」
「もしかして、雷の神殿が近いの?」
ベポが珍しく推測する。
それにローは頷く。
リーシャは意外な事実に首を傾げた。
「門番は神殿に住んでるんでしょ?一般の人に危害を加えるなんて、できるの?」
「門番はそれぞれに力がある。それをどう使うかは門番次第だ」
ペンギンが嫌なものを見るように唇を歪める。
許せない、と心の声が聞こえてきそうだ。
「あ、私が試練を乗り換えられたら雷がなくなるかな?」
「どうだろうな。取引するのか?」
シャチが再び暖炉に手を翳(かざ)しながら問いかけてくる。
「うーん……話が通じたらね」
リーシャは曖昧に相槌を打つ。
余り自信がないのだ。
いくら世の中で勇者と言われる存在でも、自分はただの人間に変わりない。
「俺がいる。安心してぶちあたってこい」
不意にポン、と暖かい手の平の感触を感じ目を向ける。
「ローさん……」
「俺達、に訂正しといてくれ」
「アイアイ!」
ペンギンが追加を入れる。
リーシャは目頭がツンとした。
「うん……頼りにするからね!」
「任せとけっ」
「シャチにはあんまり期待してないから安心して」
「えええー!?」
シャチは目が飛び出したわ!と、つっこんだ。
「あはは!嘘だって!」
「嘘でも言うなよォ……」
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