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「そんなに自分が信じられないんだったら、泉に突き落としてやるよい」
ペンギン並の毒舌にリーシャは身震いする。
「え、遠慮しますっっ!」
「そんな事されたら、風邪引いちゃうよね」
「そういう問題でもないけど、問題ありだからねベポ」
検討違いな意見に突っ込むリーシャ。
相変わらず天然キャラな白熊に、あははーと笑う。
「とにかく。あれが本物の泉だったら、どうしてこんなマグマがある場所にあるんですか?」
「あそこが休憩場所だからだよい」
(セーブポイントみたいな感じ?)
マルコの説明にゲームでは、よくある場所なのだとリーシャはふむふむ、と納得した。
それと同時に、これは勇者に課せられた試練だった事を実感する。
(そっか、私ってそういえば勇者だった……)
勇者の姿であるマントや装備などの数々。
「リーシャ?行かないの?」
「あ……い、行く行くっ」
ベポに声をかけられ、ハッと意識を戻す。
(ダメダメ、ネガティブはダメなんだから!)
この異次元とも言える世界に来て戦わなければ、進まなければ、と決心したのだ。
ではなければ、自分はこの『場所』から出られない。
「わああ!水だよ、水!」
沈みかけた気持ちを引き戻し、リーシャは湖に小走りで近づく。
水を手で救い上げるとヒヤリと冷たいものが指先に流れる。
熱い空気をはらんだ溶岩にある、まさにオアシス。
リーシャは嬉々としてそれを飲んだ。
「あ、そういえば……」
「何だよい」
マルコが先を聞いて来るので、なんとなしにポツリと言う。
「いや……前にもこんな泉みたいな場所でペンギンと出会った事を思い出して……」
ペンギンの登場は奇天烈だった。
泉から登場した時は、それはそれは驚いたものだ。
水ですら飲む気が失せる程に。
「あははー。ベポ覚えてるよね?」
「うん」
ベポは水を飲みつつ頷く。
「あのペンギン帽子を被った奴か」
マルコの反応はリーシャのとは違った。
苦いような不快感が入り混じった表情である。
リーシャは困惑しながら内心聞こうか迷う。
(ペンギンと何かあったのかな?)
そもそも、マルコとペンギンは顔を合わせていなかったはずだが。
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