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「……貴方という人は……」
「なんだ」
ペンギンがため息を付きながら新聞を折り畳むのを見る。
「ロ、ローさん?」
「あ?シャチ、今までの呼び名はどうした」
「いや、わかって言ってるでしょ……」
げんなりとするシャチに俺はフッと笑う。
そう、全てはあいつの為に用意されたシナリオ。
そして俺の願いでもある結末。
全部が上手くいくとは思わないが、せめて今だけは――。
「今日はもう寝る。リーシャの悲鳴が聞こえても助けにくるなよ」
「断る」
「……冗談にしておく」
全く、人の夜ばいをなんだと思ってやがる。なんて心中で呟くとシャチが「キャラ変わってますよローさん」と言われた。
仕方ないだろ。生物は本能に忠実なんだよ。
俺が部屋に戻ろうと背を向けるとペンギンが呼び止めた。
「他になにかあんのか」
「まだ時期が早い、軽率な判断で俺達の苦労を無駄にしないでほしい」
「……わかってるさ」
俺はそのまま前に歩き出した。
「時期が早い、か……」
自室に入った俺はぼんやりとさっきの言葉を思い出す。
わかってるんだ。自分に言い聞かせる。
「――よろしいですか?」
「あ?お前誰だ」
「……カリナですよ。ローさん」
気安く名を呼ばれ、ぴくりと眉が無意識に下がる。
いつ名を呼ぶ程になったんだ。
イライラとする感情を隠す理由もないため低い声を出す。
「よろしくねェよ。――失せろ」
問答無用で切り捨てる。
しかし女は怯むことなく勝手に扉を開いてきた。
おいおいマナーがなってねェな。
俺もあまり人の事を言えないが。
考えている間に俺の前まできた女。
「離れろ」
俺が殺気を出しながら女に言ったのは、こいつがゆっくりと首に腕を回してきたからだ。
「っ……さすがにここまで冷たいと傷つくわ」
「知ったことか、鬱陶しい」
冷酷だと思うか?
生憎言われ慣れている為なんとも思わない。
「あの子には優しいのに――どうして……?」
「お前に教える義理はねェ。これ以上顔を近づけてみろ、この宿の主人とやらに慰謝料を貰う」
最後の言葉に顔を醜く歪めた女。出会った時からこうなることはわかっていた。
「あァ、そういやァ――」
留めとばかりに俺はフッと笑い――。
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