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俺の言葉に戸惑ったようで、ポカンとした表情で頷いたリーシャ。
こいつは勇者で、
最も、勇者らしくない勇者だ。
こんなことを口に出せば、「私は勇者じゃない!」と言い出すだろう。
不本意で勇者になったから当然と言えば当然だな。
迷宮みてェな洞窟に着いた俺達は、最初諦めて来た道を戻ろうとしたが、あいつが残念そうな顔をするものだから、真っ赤な毛糸を魔法で出してやった。
「ほら、魔物が来たぞ」
と言ってリーシャを前へ誘導する。
「ひい!あ、あっち行ってぇ!」
こんな感じで剣ではなくこん棒を振り回す。
なぜだと思って聞いたことがあった。
「殺生とか嫌いだから」
なんて生ぬるいことを言う。
でも、
「魔王も殺すとか言ったけど、話し合いでなんとか解決したいから」
とも言っていた。
本当、生ぬるい。
俺はそう思いながら、でも口元が上がった。
確かに、話し合いなんて通じるかわからないし、下手すると殺されて終わるかもしれない相手にそう思うなんてリーシャらしいと納得する。
理由を更に問い掛けると、魔王が人を殺したとか聞いたことないし……、という単純なことだった。
本当に単純で平和主義な奴。
俺は今だレベルを上げる為に奮闘しているリーシャを見ながら口元を密かに上げた。
***
「はぁはぁ……うわ、なんか前にも同じような冒頭があったような……」
「確かに、お前いつも息切れしてるイメージだな」
「うわ、嫌だ!なんか嫌それ!」
シャチに固定され嘆く私にベポが宝箱を差し出した。
「リーシャ!これ開けてみようよ」
「うん!初めての宝箱だよね!」
「はァ?初めて?」
シャチが怪訝な顔をしてくるので私はムッとした。
「そうだよ!今まで戦闘フラグはほとんど避けてきたんから!」
「威張るなリーシャ。けっこうそのせいで今だって戦闘がキツイだろ」
「う、うん……まぁ」
よくあるパターンだ。
どんなゲームだって楽な道を選べば後で苦しくなる。そんな状況がまさに今だ。
「楽し過ぎたよ本当ー」
「今でも間に合うよ!」
「うんわかってるよベポ!さすが私の気持ちわかってるぅ!!」
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