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これでは自分の本音を言っているようなものだ。
「なァ、抱かせてくれ」
馬鹿な自分に嘲笑う。
何故悲しい?
何故頼む?
矛盾した言葉程相手に伝わるのに。
しかし、リーシャはローを突き放す。
そうか、と自嘲し身体を離すと刀を手に最終戦を始める。
やはり、世界がルールなのだ。
ローが魔物をかき集めた時、彼女が膨大な気を発動させたのを感じた。
(覇気……!?)
虚しさが残った。
生ぬるい、生ぬる過ぎる。
最後の最後までリーシャの優しさは変わらなかった。
それにもう何かが弾け飛んだ。
魔王の役柄なんて懲り懲りだった。
希望を捨てないリーシャに刃を向けて何故だ何故だと責める。
どうしてローは魔王で、どうして彼女が勇者なのだ。
己も世界も全て憎い。
そして、勇者の唇を奪う。
(クソがっ!!)
馬鹿なのはロー。
愚かだったのも自分。
一番世界に抗えないとわかっていたのに足掻いていた事だって。
魔王と言われた自分と勇者と言われたリーシャ。
結局、どちらも同じ存在だった。
***
光に包まれた二人。
リーシャはローの手を取って握った。
「私ね、魔王倒したよ」
「まだ生きてんだろ」
「ううん……魔王を倒して、ローさんが残った」
リーシャの言葉に魔王は目を見開きゆっくりと閉じる。
「お前には負けた」
「あははっ、初めてローさんに勝った」
穏やかな空間にリーシャは微笑み、ローも力無く笑う。
「ねぇ、ローさん」
「なんだ」
「私はどうなるのかな」
「元の世界に帰る」
「やっぱりかぁ」
名残惜しげに笑うリーシャにローはクスリと笑みを浮かべる。
そういえば、とリーシャはクリスタルが揃い魔王を倒せば願いが叶うと聞いたのを思い出し結晶を手に取る。
「願い事叶えられるの?」
「魔王を倒した特典だからな」
「この世界にいるっていうのは……」
「駄目だ。俺はまた魔王に戻るが、お前は普通の生活に戻れ」
そうきっぱりと言うローはリーシャの肩に手の力を入れる。
「……ローさん――」
「最後に……俺の願いを叶えてくれないか?」
泣きそうなリーシャにフッとはかなげに笑うロー。
もちろんと頷く。
仲間である彼の願いとあらば。
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