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だが、やはり運命は残酷にローを突き刺した。
ハンコックが番人を勤める氷の神殿の試練を乗り越え魔王の元へ行く最終章のシナリオへと突入したのだ。
ロー達が魔王だと知った時のリーシャの表情は絶望だった。
ローも同じ気持ちを味わったからわかる。
もう元の仲間には戻れない。
あの愛しくなる笑顔を二度と見られなくなる瞬間だった。
牢屋に入れるように命じたのは滅入っていたからかもしれない。
暫くすると牢屋に赴いた。
魔王の役柄を背負って彼女に近付く。
予想通りリーシャは怒っていたし泣いていた。
抱きしめたい。
「本当はこんな事なんてやりたくねェ」と安心させてやりたかった。
でも出来ない。
だから、闘えないよう戦意をなくすように仕向けた。
初めてのキスなのに苦い。
彼女が抵抗を現せば冷たく接した。
もうお前の知っている魔法使いはどこにもいないんだと言えばダラリと身体の力が抜けて朧げな瞳が見える。



(これでいい)



これでいいのだ。
もう後戻り出来ない自分達が愚かに見えた。



(そうか……)



ペンギンがあの時言った「愚かだ」という意味はこういう事だったのか。
もう一度満たされない口づけを彼女に施した。
すると、驚くことにまた抵抗を示してきたのだ。



(もう、終いだ)



潮時にローは身体を離し、牢屋を出て彼女を置き去りにした。
己の椅子に腰掛けるとどっと胸に毒を流されたような痛みが襲う。
ぐしゃりと髪を掻き乱した。
長い間動かずにいると胸がざわりと騒いだ。
嫌な予感に冷や汗をかく。
これは世界が動き出した合図だ。
勇者が魔王を倒しにやってくる。
しかし、そうはさせない。
リーシャがローのいる階段の最下に到着すると魔王の役柄を再び着させられる。
愛玩奴隷。
魔王が勇者と戦わずに済ませる方法はそれしかなかった。
優しくするがリーシャは絶対に受け入れない。
それが相反した二人の関係だからだ。
シナリオは曲げる事は出来ないが魔王が勇者に酷い仕打ちをするのが王道。
上手くそれを利用すればいいだけのこと。
目の前に移動し頬をするりと撫でる。
首輪を付ければ上出来だ。
世界がそれを望むなら。
ニヤリと笑えば残酷な魔王。
だが、勇者は牢屋の時のように目が虚にならなかった。
幸せにはなれないのかと問われた時、空虚が胸に張り付く。
何を馬鹿な事を、と目を見て言えなかった。



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