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「……扉、閉めるけど、もしかしたら開くかも……絶対、絶対に押さないでね……」

「ベポ……うん、絶対絶対、押さないから」



彼の言わんとしている事がわかりリーシャは微笑んだ。
相手も最後に微笑み返してくれた。
ベポが牢屋から完全に去るとリーシャは扉に近付いてそっと押す。
すると、扉は役目を忘れたかのようにギィと音を立てて開いた。
それを確かめると勇者は深く深呼吸をする。



(……よし!)



心の準備は出来た。
旅を始めた頃にケンタウルスが言っていた『解放する力』について考えていたのだが、この事を想定したものだったに違いない。
リーシャはハンコックにも頼まれた。
もう誰からも縛られたくない。
美しい人でさえ苦しめる鎖を解き放つ事を確かに約束した。
自分は世界が選んだ勇者だ。
だが、だからと言って世界の言う通りにするなんてリーシャは一言も言った覚えはない。
牢屋を出ると辺りは静かだった。



「魔物……!」



突然、黒い塊が現れた。
典型的な魔物とは違いぼやけたスライムのようだ。
こん棒を手に立ち向かう。
もし今ロー達が居れば「甘い」と言われていただろう。
たけど変えるつもりは毛頭なかった。
どれだけ相手がいようとリーシャは命に対して妥協などしない。
万に一つでも失ったらそれでおしまいなのだから。
魔物がどんどん沸く中、一人で着々と倒していく。
今までの冒険で磨いた腕。
隙が出来ると一目散に走り出した。
すると、行く手に二つの人影が道を塞ぐ。



「ペンギン、シャチ……そこ退いて」

「断る」



無慈悲に跳ね返される返しにリーシャはもう目を逸らさなかった。
シャチは拳を握り唇を噛み締めている。
ベポと全く違わない表情を浮かべていた。
リーシャは確信する。
誰もこの世界の役柄に納得などしていない、とベポが言っていた。
正にこういう態度がそれを証明している。
立ち塞がるのが二人の役柄であれば苦い表情を浮かべるのは当然だ。
ペンギンも無自覚に顔を苦痛に歪めていた。
リーシャは黙って二人を見る。



「魔王をさ、お前は助けてやれるのか?本当に……」

「シャチ!」



シャチがローについて述べるとペンギンが止めろと怒鳴る。



「んだよ、ペンギンだって同じ事思ってんだろ!もううんざりなんだよっ!」



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