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「……ベ、ポ?」
喉が渇いて掠れた声が出た。
リーシャは咳き込みながら白熊を見る。
「あっ……水を今持って行くから待ってて」
慌てた様に伸ばした身体を一旦戻して牢屋を開ける。
ベポは入ってくると水差しをリーシャに渡した。
それを受け取ると一気に飲んだ。
涙を流して体中の水分がなくなったようで、潤う喉にやっと落ち着いた。
空になったコップを渡すと次は盆に乗った食事を置かれる。
ベポを見ると彼は目を逸らした。
「俺は、ただ食事を持ってきただけだよ……」
そう言い訳めいた言葉を言っているがそこから動こうとはしない様子だった。
何かを伝えたいのか、ベポは忙しなくチラリとこちらを窺い見ては視線を戻す。
「どうしたの……?」
いつものように尋ねると相手は驚いたようで目をしばたかせる。
何故?と疑問に目が揺れていた。
リーシャがまさか気遣う様に聞いてくる事など有り得ないと思っていたのだろう。
リーシャだって自分に驚いていた。
(諦め?……違う)
さっきは絶望感に打ちのめされていたが、今は何故か心情が穏やかだった。
一度人間の感情でピークを越えたからかもしれない。
絶望の果ては無だと聞いた事はあるがこういうことだったのかと一人納得する。
「俺達の事、怒ってないの……?」
不安げに問い掛けるベポは唯一変わらぬ態度でリーシャをそっと見る。
「怒ってるよ。もちろん」
「そ、うだよね」
「でも、何だか開き直ってきたかも」
「え?」
リーシャが伏魔殿に来てから初めて笑みを浮かべた。
ベポの茫然とした顔のお陰かもしれない。
自分を取り戻せたような気分だ。
「で?」と白熊の言いたい事を聞き出す。
「俺達を……キャプテンを恨まないであげて」
「キャプテンって、ローさんの事?」
「うん。俺達は魔王の配下だけど奴隷みたいには扱われた事なんてないんだよ」
「配下……」
やはり全てはシナリオの上を歩いていたのだと尽く感じた。
リーシャの陰った表情にベポは慌てて話を続ける。
シャチもペンギンも同じく配下だという事。
ローは予め計画を立て勇者と同行出来るように仕組んだ事など。
後はローにも聞かされた門番の話。
「俺達は所詮、世界の鎖で繋がれた囚人なんだって」
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