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二人分の足音がやがて遠ざかり聞こえなくなるとリーシャは膝を抱え顔を埋めた。
ひくりと喉が鳴り目頭が熱くなる。
何が起こったのか考えたら、哀しみが一気に押し寄せてきた。
恐怖、疑問、混乱、哀切に身体が震える。
どうして、それだけが頭の中を占めて胸が張り裂けそうだ。



「助け、て……」



誰に言ったのだろう。
リーシャでさえわからない。
救いに助けを呼んだんじゃない、自分の無知な愚かさを誰かに責めて欲しかった。
罵ってくれさえすれば胸の痛みが楽になるかもしれない。
何分何時間、どれくらいの時間泣いていたかわからなかったが耳がコツリと音を拾う。
顔を上げる気力なんてもう残っていない。
そのままの姿勢でいると誰かが牢屋に入ってくる。



「泣いたのか?」



冷たいのか優しいのか検討がつかない声音。
明らかにローのものだった。
こちらにやってくるのが気配でわかる。
それでも顔を上げないリーシャに何を思ったのか彼は目の前に腰を折る。



「顔を上げろ」



少し怒気の含まれた声にびくりと身体が反射的に揺れる。
ゆるりと顔を上げると相変わらず端正な顔立ちがあった。
ローは顔を上げるとスッと手をリーシャの顎にかける。



「悲しいか」



問い掛けられたと気付いたのは数秒後の事。
リーシャは頷く前に怒りが沸く。



「悲しいに決まってる。当たり前の事なんて聞かないで」



そう言い切るとローは無表情に勇者を見る。
この表情は幾度も見た事があった。
女性に言い寄られている時、門番達に何かを言われた時、考え事をしている時に。
リーシャに向けられた事は一度もなかった。
この時までは――。



「門番達はな、俺が魔王だって知ってたんだ」

「……!?」

「魔法で誰もそんな事は言えないがな」



魔王は笑みを浮かべる。
勇者は驚きに胸が騒ぐ。
確かその事に関してはエースが述べていた。
誰も口には出来ないのだ、と。
門番達は全部知っていた。
皆思い返せばかなり不可解な言葉を言っていたような記憶がある。
ドフラミンゴやハンコック、マルコも。
マルコはペンギンの事を気に入らない風に言っていた。
あれはつまり、この事だったのだろうか。
だとすればリーシャにヒントを与えてほのめかしていた事になる。
教えていたのだ誰もが。



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