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どうして。
リーシャは夢でも見ているのかと思った。



「現実だ」



嘲りの声音を含んだ言葉がグサリと胸を刔(えぐ)る。
どろりと血が流れる様な感覚に立っていられない。
震える唇が、身体が拒絶するのだ。
消え入るように「嘘だ」と呟いてもローは答えてくれない。
黒い服に身を包む魔王は顎で誰かに合図した。
後ろに気配がしたと思うといきなり両腕が圧迫感に襲われる。



「ペンギン?……シャチ?」



仲間だったはずの二人だった。
一人に片腕をがっちりと拘束されていたが驚きに抵抗感すら湧かない。
どういう事なのだろう。
リーシャは靄(もや)がかかる頭で事の末を今更に思い知る。
つまり、最初からこうなると決まっていたのだ。
計画された結末。
ベポが森で仲間になったのも、ペンギンが泉から出てきた事やシャチが獣道で団子屋をしていたことも。
ローがあの時、故意にリーシャと出会った事すら。
全部全部、仕組まれたものだった。
今思えばどれもこれも疑わしい点は腐る程ある。
それでも疑問を抱かなかったのは『信頼』『友情』『仲間』。
この全て以上があったからかもしれない。



「連れていけ」

「「はっ!」」



まるで下部の受け答えだ。
突飛な関係にまさかと考察が渦巻く。
その間もペンギンとシャチはリーシャを捕らえた状態のまま歩き出す。
やはり抵抗する力が全く湧いてこなかった。
もう意味もわからない。
いや、わかりたくないのだろう。
まだ何処かで信じている自分がいる。
馬鹿みたいかもしれないが、信じているのだ。
ずっとずっと旅と冒険を共にした仲間が嘘だと笑ってくれることを願っている。
本当にどうしようもない。
リーシャだって馬鹿だと思う。
そうこう考えている間に一つの鉄格子が見えた。
きっと入れられるのだろうとぼんやりした思考が思う。
ゆっくりと南京錠がついた入り口の扉がキィと音を立てる。
三人以上が簡単に入る程の広さがあって、中に置くように牢屋にリーシャの身体が放された。
暴れるなんて考えすら思いつかない。
ペンギンとシャチの顔を見る余裕すらないぐらい放心したまま。



「後でまた見に来る」



短くペンギンの声が響いた。
本人の声をちゃんと知っているのに知らない人間のように冷たい。
鉄が閉まる音がした。



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