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ついにこの日が遣ってきた。
集めたクリスタルを手に持ち外へ向かう。
吹雪は嘘の様に止んでいて驚いたがハンコックが魔法を解いてくれたらしい。
「わらわも一緒に行きたいが力不足故……すまぬな」
「いえいえハンコックさんには十分過ぎるくらいお世話になりましたよ!」
ハンコックと九蛇達やマーガレットが扉の外までお見送りに来てくれた。
今からここでクリスタルを使って魔王の元へ、伏魔殿に移動するのだ。
挨拶を皆に済ませるとロー達の元へ戻る。
そして、クリスタルを一つの場所に円状に並べてその中に五人が入った。
辺りに緊張が走る。
「行くぞ」
ローの言葉に全員が頷く。
次の瞬間、リーシャ達を囲む様に光りが瞬いた。
(待ってろ魔王……!)
この時この瞬間までリーシャは本当に勇者として戦い様々な事を経験した。
そして、意気込む。
無知で愚かな自分を呪う事になることを知らないまま――。
一瞬意識がグラリと揺れるのを感じるとリーシャは目を開けた。
暗い場所に驚き周りを見ると自分一人しかいない事に気付く。
ペンギンもローもいない。
リーシャは声を上げて名前を呼ぶが静寂しか帰ってこなかった。
焦りを覚えて歩き出す。
暗い闇がずっと続いている。
明かりの魔法を使おうと考えた時、突然周りが明るくなった。
たくさんの蝋燭が灯ったのだ。
リーシャは驚きに辺りを見る。
ふと目の前に上に上がれるような階段があることに気付いた。
「よく来たな、勇者よ」
突然、声が頭上から聞こえた。
魔王だと顔は見えないが直感する。
「貴方が魔王ですか」
「そうだ」
違和感。
リーシャは頭痛に似た違和感を感じた。
魔王と名乗る相手の靴音で階段を降りてくる気配がしたので数歩下がる。
「俺はずっとこの時を待っていた」
魔王は話続ける。
「お前がここまで来るのを」
足音が近付く。
「まだ気が付かないのか?」
やがて蝋燭の明かりが届く場所でその姿が照らされた。
「なァ……」
言葉を失った。
「リーシャ?」
魔王の姿は紛れも無く――。
「――ロー……さん……?」
魔法使いトラファルガー・ロー、その人だったのだから。
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