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それならばとリーシャは立ち上がる。
「どうしたんだ?」とシャチに聞かれると「ローさんのところに言ってくる」と言い残す。
三人は何故か生暖かい目で手を振ってきたのでよくわからないまま振り返した。
一体何だというのだろう揃いも揃って。
とりあえずベポ達がいる部屋を出てローがいるであろう部屋に向かった。
数回ノックすれば入れと許可が下りたので中に入る。
本を読んでいたようでパタリと閉じる音が室内に響いた。
「どうした?」と優しい声音で聞かれ、特に用はないが作戦を練っている事を聞いたと言えばローはフッと口元を上げる。
「それでわざわざ来てくれたのか?」
「だって一人に任せっきりにできないし」
「へェー」
「癒し必要でしょ、癒し」
「あァ」
ふざけた態度を変えないリーシャに対してローは特に何も喋らなかった。
「決戦前夜だから皆に旅が終わったらどうする?って話してたんだよ」
「ククッ、成る程な」
ローはひとしきり笑うと自分の顎に手を添えた。
「そうだなァ……俺は魔法使いは辞めて医者にでもなるか」
「え?凄い魔法がいっぱい使えるのに?」
「確かに便利たがな、人は生き返らないし生き返らせる事もできねェだろ?」
「魔法でも危機を救えると思うけど……」
「危機っつー危機は救えねェんだよ。魔法にも限度がある」
「そうなんだぁ」
ローから初めて聞いた話に興味津々なリーシャ。
「そんな事を考えるのは遠い未来だと思っていたが時間が経つのは早ェな……」
「私もレベル十からこんなに強くなったしね」
「俺のスパルタの賜物だな」
「はいはい感謝してますよー」
「ククッ……」
スパルタの日々は確かにとても辛かった。
毎日ローと過ごしている今に比べればギャップが凄かったのだ。
扱かれるのは初体験だし何よりも魔法は難易度が高かった。
想像力が豊かでなくてはすぐに失敗する。
最初の頃はステッキを出そうとしたら粘土みたいに形がぐにゃぐにゃに崩壊したものだ。
それに比べれば今は上出来である。
リーシャはローに軽口を言うとローはからかいを含んだ声帯を震わせた。
こんな日をずっともう皆と過ごしていることが日常の中にある幸せなのかもしれないと今更だが、しみじみと実感する。
バラバラになんて本当はなりたくないがリーシャ達は進まなければいけないのだ。
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