08
「ん……」
どうやら私はいつの間にか寝てしまったようだ。
というか、昨日は宿に泊まった記憶がない。
「…?なにこれ?」
何故か顔の前に固い何かがあった。
私はゆっくり目を開けた。
「…えっ?」
これは間違いなく人の胸板だ。
私はそろりと上へ向いた。
「っ…!」
そこには目を閉じて眠っているトラファルガー・ローの顔が目の前にあった。
しかも上半身が裸のまま私を抱きしめている状態で。
「ななな、なんでこんなことになってんの?!」
私はトラファルガー・ローの腕から抜け出すために体をよじった。
けれど、余計にトラファルガー・ローの抱きしめる力が強くなった。
「うわっ…ちょっと!起きなさいよ!」
私はトラファルガー・ローの胸を叩いた。
「んだよ……俺はまだねみィんだよ……」
トラファルガー・ローは目を閉じたまま答えた。
「私は眠くないの!それよりこの腕を離してよ!」
私がそう言うとトラファルガー・ローは少し目を開けて私を見た。
「昨日はあんなに素直だったのになァ?」
そう言って彼はニヤリと意地悪く笑った。
「え?なにそれ、私昨日お酒飲んだところまでしか覚えてないんだけど…」
私は顔をしかめながら答えた。
これは本当だ。
確かに誰か私の横に座ったのはぼんやりと思い出せるが、もしそれがトラファルガー・ローだとしたら。
「私……もしかしてあんたになんか喋ったの?」
私がそう言うとトラファルガー・ローは呆れたようにため息をついた。
「覚えてねェならいい……」
トラファルガー・ローはそう言って私の体に巻いていた腕を解いた。
私は彼の言葉に引っかかりを感じたが、賞金稼ぎが海賊船に長いするわけにもいかなかったので足速に船長室を出る。
その際、トラファルガー・ローをチラリと見ると彼はすでに夢の中へ旅立っていた。
船長室を出た私はふとあることに気が付いた。
「出口がわからない……」
私は長年トラファルガー・ローとハートの海賊団を追い掛けてきてはいるが、船に乗ったのは初めてだったから今自分が船のどの場所にいるのか全くわからなかった。
「その前に、敵の前で無防備に寝ていた私って……」
賞金稼ぎとしての失態に私はガックリと肩を落としながら適当に近くにある扉を開いた。
「あ……」
私が開いた場所は食堂だった。
もちろん今は朝食の時間なのでクルー達がそこへ集まっていた。
(え、なにこれ……死亡フラグ立ってんのかな私……)
私は手を頭に当ててため息をついた。
すると私に気が付いたキャスが声をかけてきた。
「お、起きたんだな!」
「え……うん……」
私の考えとは裏腹にシャチは笑いながら言った。
シャチはトラファルガー・ロー同様昔から私のことを知っている。
すると私達に気が付いたベポがやってきた。
ベ「あ、リーシャ!おはよう!」
「ベポ!おはよう、ところで出口知らない?」
私はベポに抱き付きながら聞いた。
「え、もう帰っちゃうの?」
「うん、ていうか当たり前じゃん……」
私賞金稼ぎなんだけど。
キャス「そんなこと言うわりにはのんきに寝てたけどな!」
「うるさい!バカシャチ!」
「ぐえっ」
私はシャチに肘でお腹を殴った。
人が気にしていたことを指摘した報いだ。
痛がっているキャスは放っておいて私はベポに出口まで案内してもらった。
食堂から出る時にクルー達に「またな」とか「今度は酒飲み過ぎるんじゃねぇぞ」と言われたが、私は何も言わずに扉を閉める。
それから私はベポの案内のおかげでなんとか外へ出られた。
「ベポ、ありがとね」
「ううん、それじゃあねリーシャ!」
そう言って手を振るベポに私は苦笑いしながら手を振り返した。
その時私はトラファルガー・ローが自室の窓からその様子を口元に笑みを浮かべながら見ていたなんて知らなかった。
(私は知らない内に彼等との境界線を越えてはいけないと自分に言い聞かせていた)
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