船室のドアを開き、デッキへ。
展望台で見張りをしているはずのゾロの姿は、下からは見えない。
たぶん、いつものようにあぐらをかいて寝ているのだろう。
その代わりに、船縁に手をついて海を見ているロビンの姿を見つけた。
たぶん、ナミの気配には気付いているだろう。
「穏やかな海ね」
その証拠に、ナミがロビンのすぐ後ろにまで近付くと、いつもの声のトーンで話しかけてきた。
「今日はたぶん、このままの感じで朝になると思うけど……でもここは、グランドラインだから」
ナミが答えると、ロビンは「そうね」と小さくつぶやいた。
隣に並んだロビンの声から緊張が伝わってきたのは、たぶん、ナミが緊張しているせいでもあるのだろう。
ふたりの間では、こんなに簡単に感情が伝染してしまうのだとわかっているくせに、ロビンはまだ隠しきれると思っている。
守りきれると思っている。
ロビンの傷つきやすいやわらかなこころの襞を覆っている、かたいかたい殻を。
でも、かたいものは時に、とても脆いものだ。
できることなら、小鳥のひなが内側から小さなくちばしでつついて自ら殻を割るように、ロビン自身が殻から出たいと願うときを待っていたいと思ってはいたけれど……
これ以上待つことはロビンを失うことになりそうで、もう、動かないわけにはいかなかった。
「ロビンはさ、あたしたちのこと、ちゃんとわかってる?」
「……それは、どういう」
唐突な質問に、ロビンが面くらったような顔をするのは、当然といえば当然だ。
ナミが踏み込んだ一歩で退かずに、二歩目を踏み出したのは初めてだったから。
「ロビン、あたしたちのこと、見くびってない?」
「そんなことは、ないと思うわ」
「そうかな」
ナミは船縁についたロビンの手を取り、ぐっと引いてナミの方に向かい合わせる。
暗殺が得意なはずの細くしなやかな手は、簡単に引き寄せられた。
「あたしたちは、何も聞かない。でも、何も聞かないのは、何も知りたくないからじゃないし、ロビンが話してくれるのを待ってるからでもない。ロビンがそうしたいなら、そのままここにいればいいって、そう思ってるからなの」
ロビンの目は、月の光ととまどいをたたえてきらめいている。
その瞳に吸い込まれてしまいたいって思うほどにあたしがバカだってことにも、ロビンは気付いてないよね、きっと。
「でも、ロビンが何かに怯えて……あいつが言ったような、過去とか、そういうものに」
「やめて」
「やめない」
ロビンの痛みに打ち震えるような表情を意に介さず、ナミは断固とした口調で言葉を重ねた。
だって離れていくなんて、許せないもの。
「あいつが言ったみたいに、過去とか、ロビンが隠しておきたかったものを知ることであたしたちが離れていくんだと思ってるなら、そんなことないし、ロビンが苦しんでいるんだったら、その苦しみを一緒に……」
「もうやめて!」
ロビンの強い口調に、ナミは言葉を止めた。
でもそれは、ひるんだからじゃない。
ロビンが、ほんとうに……ほんとうに、傷ついた顔をしたから。