空気が揺らいだ気がして、ナミはまぶたを上げた。
船室の丸い窓からは月明かりが射しこみ、やさしくほのかに闇を照らし出している。
寝起きの気だるい気持ちで、顔を隣にぱたんと倒して向けた。
隣に寝ているはずの、同室者の姿はない。
またか、と思う。
また、夜のひとり歩き。
ナミはゆっくりと体を起こすと、脚を曲げて引き寄せ、膝を抱えてため息をついた。
アラバスタから出航するとき、国が生まれ変わるという混乱に紛れて乗船したロビンがこの船に慣れるには、もう充分な時間が経過したと思う。
この船のあるかなきかのルールを学んで、大した問題も起こりようのない人間関係を知って、クルーの扱い方も心得て。
慣れたといえば、慣れたのだろう。
溶け込んだといえば、溶け込んだのだろう。
けれどロビンは、何も分け合わない。
けれどロビンは、何も伝えない。
かなしみだって苦しみだって、ひとりで抱えず分け合えたなら、多少はこれからを行く足取りも軽くなるだろうに。
ナミがひとつ踏み込もうとする気配だけで、ロビンは身構える。
クルーのいたみの前では律儀なまでに、一緒に立ちすくんでいるくせに。
かける言葉も見つけられずに、目を伏せて、耐えしのんでいるくせに。
その態度は、青キジとかいう海軍大将が、ロビンを凍りつかせてからいっそう顕著になった。
ただでさえ眠りが浅かったロビンが、ほとんど眠らなくなった。
ただでさえ口数が少ないロビンが、ぼーっと宙空を、どこか遠いところをまなざしていることが多くなった。
みなを心配させまいと、普段通りの生活を続けているふりはしているし、夜になれば以前と同じようにベッドに一緒に入ってみせもするけれど。
夜毎ロビンはベッドから抜け出して、きっと星に尋ねてる。
なぜ、自分は生かされたのか、と。