Scene_6
「まだ、一年あるわ」
腕の中で、ナミが少し体をこわばらせた気がしたけれど、ロビンがそう言葉を続けると、ナミは言葉の続きを待つように動きを止めた。
「ナミ離れ、まだ、しなくてもいいでしょう?」
ナミの髪の毛に鼻をこすりつけるように触れて、すんと匂いをかぐ。
ひどく動物的な仕草だな、と自分で思った。
その濃度を増した匂いだけで、今は満たされるロビンだけれど。
いずれ、それだけでは満たされなくて、『もっと』を、『その先』を求めてしまって、ナミを困らせ、傷つけ、拒絶されてしまうかもしれない。
この腕の中にナミを閉じ込めておきたいという自分の欲求が、これほどまでに大きくなっていることにロビンははじめて気がつき、その欲望の果てが見えないことにぞっとした。
そんな日が来る前に、時間がふたりを引き離してくれればいいと、そう思いもするけれど。
せめて今は、まだ。
そばにいたい。
「もう少しだけ、ね」
ロビンの言葉に、ナミがこくりとかすかにうなずいた感触を鎖骨のあたりに感じた気がしたのは、ロビンの願望が作り出した錯覚だったのか。
でも、錯覚でもかまわない。
「このままで、いさせて……」
18年間一緒にいても、まだまだ新しい表情を見せてくれるあなたのそばに、もう少しだけいさせて欲しい。
ロビンが犬のように鼻をすりつけて、もう一度ナミの香りを胸一杯に吸い込むと、ナミの体はびくりと震えて。
いつも強気にロビンを叱るナミが、ロビンの腕の中で、更に顔を真っ赤にしているに違いないと思って。
ロビンの心も、体も、あふれだした愛情に満たされていく。
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