Scene_5
こんなに近くでナミの香りに触れるなんて、どれぐらいぶりだろう。
ロビンの顔のすぐ下にある、オレンジ色の少しくせっ毛の髪の毛。
ほら、言ったでしょう?
危ないからって。
そう口にしたなら、きっとナミは怒るだろうから、ロビンは声に出す代わりに、腕をつかんだ手のひらと肩に回していた手のひらに力をこめた。
このいとしい存在を、この世界に傷つけられてしまわぬように。
この世界に、奪われてしまわぬように。
「ロ、ロビン……」
消え入りそうなナミの声が耳に届いて、ロビンは少し体を離してナミの顔を見下ろした。
腕の中のナミが見せたうつむきがちな表情に、呼吸の仕方さえわからなくなるほどに苦しく、切実な、いとおしさがこみあげる。
十分に明るいとは言えない街灯の下でもわかるほどに、色づいた頬。
戸惑うようにまばたきを繰り返すたびに震えるまつ毛は、心が揺れている証。
その鼓動は、まるで早鐘のように胸を打ちつけていることだろう。
その表情だけで、ロビンの心臓は簡単に握りつぶされてしまう。
苦しくなってしまう。
こんなナミを、ロビンは知らない。
「も、だいじょぶ、だから……離して、いいし……」
伏し目がちにそう言われたら、もう体の奥の奥からこみあげてくるいとしさはどうにもおさえがたくて、せめてこの口からはあふれだしてしまわぬように、ロビンはそのいとしさをナミを抱きしめる腕の力に変えた。
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