Scene_4
「そんなんで、あたし離れできるのかって、結構本気で心配してんのよ?」
「ナミ、離れ?」
ロビンがそう尋ね返すと、ナミはくるりとロビンの方へ向き直った。
「そう、ナミ離れ」
ナミは至極真剣な顔で言ったけれど、真剣なまなざしで『ナミ離れ』というふたりの間でしか通じない単語を繰り返したナミがかわいらしくて、我慢できずにロビンは笑ってしまった。
「ちょっと、わりと真剣に話してんのよ、あたしは」
そんなロビンに少し怒ったような、とがめるような視線をナミが向けた瞬間、ナミの背後に迫る自転車が見えて。
「あたしだって、ロビン離れ……きゃ!」
ロビンはナミの言葉を遮って、反射的にナミの腕を引き、自分の側へと引き寄せた。
細い腕を引っ張られたその体は、背の高いロビンの腕の中にすっぽりとおさまる。
「危ないわね……」
スピードをゆるめることなく走り去った、自転車に乗った青年の後ろ姿をにらみつけてそうつぶやいたところで、ナミを危ない目にあわせた憤りは届かない。
それでも。
ロビン離れ、と確かにナミは言った。
あなたも私と同じように、離れることをさみしいと思ってくれているの?
だからおとなになっていくふりをして、少しずつ距離を置こうとしていたの?
鼻腔に届く柑橘系のナミの香りがロビンの憤りを沈め、代わりに『まだまだ足りない』とばかりにナミを求める熱情がこみあげてくる。
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