Side_Robin_5
不意に、少し遠くに感じていたクルーたちのにぎやかな声が、クリアに耳に届く。
ドアを少し開いて船室から出てきたのは、航海士なのだとその気配でわかった。
あんなに傷つけてもまだ、私を許そうというの?
振り向いて、『これ以上私を許してしまわないで』と叫んで、胸をかきむしりたくなるほどの激情がせりあがってくるのを、なんとかこらえた。
「何、してるの?」
「星を、見ていたわ」
背中からかけられた声に、ロビンは振り向かずに答えた。
「ほんとに、星、好きになったんだ」
航海士はくくっと小さく笑うと、ロビンの少し後ろに立つ。
いつもなら必ずロビンの視界に入るように……視線を交わすことができるようにする航海士が、何故今に限ってロビンの視界に入らないようにしたのかはわからなかった。
「そう、ね」
「好きな星とか、あるの?」
「特にないけれど……」
だからといって、航海士の方を振り向こうとは思わなかった。
航海士が選んだ距離が、今までよりも少し離れたものであっても、それをむやみに壊そうとはもう思わない。
「アルファルド」
空に見つけた星の名前を、ロビンはそのまま口にする。
「アル、ファルド……」
航海士はその星の名前を繰り返した。
「うみへび座で、もっとも明るい恒星よ」
「ふうん。何で好きなの?」
「好き、というほどでもないの。何となく目についたから、言ってみただけよ」
うみへび座α星、アルファルド、二等星。
意味は、『孤独なもの』
周囲に他に明るい星がないなかで、いっとう強く輝くその星が無意識に目についたのは、自分の宿命と同じ意味を持つ名の星であったからかもしれない。
「そっか」
航海士は短く答えたあとに、こくん、とのどを鳴らした。
航海士は、緊張しているのだ。
それは今までふたりを包んできた空気の中でも、はじめてのものだったかもしれない。
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