Side_Robin_4



だからあの日。

足は自然と船番をしている航海士のもとへと向かっていた。

そうして、あいまいな関係を続けられないほどに近づいてしまった。

『好き』と言わせてしまった。

たとえロビンがどんなにあからさまな態度をとったとしても、航海士は待ち続けてくれるに違いないと、そう思っていた自分のおろかしさに気付いたところで今更だった。

どこまでも航海士のやさしさにあまえようとしていた自分を、笑うしかない。

距離を間違えたロビンに対して、航海士は待つことをやめ、一歩を踏み出した。

その後のふたりに残ったものは、互いが互いを求め、追い詰めては傷つけあう、そんな時間だけだった。

『好き』と言わせてしまってからようやく、ロビンは自分の身勝手な本音に気づき、心から悔いたのだ。

自分のエゴのために航海士のやさしさを利用したことを、心から悔いた。

それなのに。

ロビンのそんなエゴをさえ、『大丈夫だよ』とでもいうように、航海士はのみこんでしまうから。

のみこんで、受け入れてしまうから。

肌と肌とがじかに触れ合うことで伝わりあうぬくもりに満たされたあの幸福なひとときは、一夜の夢にしなければならないと思った。

あんなにやわらかな仕草で、ロビンのよろこびひとつひとつをさぐるように触れてくれる手のひらを、もう離したくはないと、そう思ったけれど。

ロビンが望んでいたのは、束の間心を癒し、これからを生きていくための思い出となるあまい夢だったけれど、航海士が望んでいたのは、ふたりで生きる未来という現実だったから。

終わらせるのは、自分なのだと思った。

ここまですれ違ってしまったふたりの関係は、どちらかが終わらせなくてはならない。

ふたりで築く未来を望む航海士は、ロビンの何もかもを許してしまうから、ふたりの時間を終わらせるのは、未来を見ることができない自分なのだと思った。

『誰かが私を抱こうとして、私がそれを拒絶しないのは、特別なことではないわ』

そう言ったときに航海士の顔に浮かんだのは、このうえもない絶望なのだと思った。

たいようのようにみなを照らす航海士さえも、絶望させてしまえるほどにおろかしい人間である自分を、記憶の中に今も住まう、ロビンが犠牲にしてきたひとたちが嘲笑った気がした。

……もしも青キジが追ってこなかったら、何か変わっていたのだろうか。

水平線の近くでまたたく星を眺めながら、そんな意味のない『もしも』の問いかけで、ひとり遊ぶ。

もしも青キジがロビンのことを記憶のかなたに忘れ去っていたら。

もしも青キジとの再会が、この船に乗ってもっともっと時間が経った後で、航海士に受け入れられてもいいのだと、そう思えるに十分な時間が過ぎた後であったなら……

そこまで考えて、ロビンはその考えを振り払うように目を閉じ、ゆるく頭を横に振った。

こんな仮定の話でまで、ロビンは航海士に依存しようとしている。

もっと時間があったら、航海士はロビンを暗闇の世界から引き上げてくれたのかもしれないなんて、どこまで自分に都合のいい未来を夢想するつもりなのか。

きっと、どれだけ時間が経っても同じだったに違いない。

航海士をこれ以上傷つけずに済んで……航海士のやさしさをこれ以上利用せずに済んで、むしろ幸運だったと思うべきだ。

青キジが来なければ、いつかこの船にいられなくなると思いながらも……自ら船を降りた方がクルーたちは安全なのだと理解しながらも、麦わらの船を降りる決意をできなかったに違いない。



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