Side_Robin_3



乗船したときにロビンが話した、ロビンがさまざまな組織を渡り歩くことで20年間という歳月を生き延びてきたのだという過去を、航海士は間違いなくくみとってくれていた。

だからこそ航海士は、ロビンが自分と同じ気持ちでいることを感じとりながらも、ロビンの心の準備ができるのを待ってくれているのだ。

そう確信してからは、よりいっそう、ロビンの態度はあからさまになった。

仕草のはしばしに航海士への想いをにじませ、言葉の中にどうしようもなく含まれてしまう航海士への想いを隠す努力を怠った。

ロビンは航海士のやさしさを利用したのだ。

『好き』なのだと言わせない程度の、ロビンにとってはぬるま湯のように居心地がいい航海士との時間は、航海士にとっては、お互いに好きあっているのだと確信していながらも距離を詰めることができない、ひどくじれったくもどかしい時間なのだと気づいていたのに。

ロビンのためにその苦しみを飲み込む航海士をさえ、いとおしく思っていたのかもしれない。

なんてひとりよがりで、どうしようもない……

そんなふたりの関係は、はじめから無理があったのだろう。

なぜならロビンは、航海士から与えられるばかりで、自分からは何も与えようとしなかった。

航海士から与えられるやさしさにひたるばかりで、ロビンは航海士の願いを無視し続けた。

ほんとうに存在する価値のない人間なのだと、救いようのない自分の身勝手さに絶望的な気持ちになった。

この20年ではじめてできた、胸の奥底から大切で大切でしかたのないものさえ、ちゃんと大事にすることができない。

それでも、止められなくて。

ロビンは航海士が作り出してくれる、陽だまりのように心地よいぬくもりの中から抜け出せなかった。

そんな一方的な関係に、ひずみが生まれないわけがない。

そのひずみが亀裂となって、遂にはふたりを別ったのが、青キジと再会してしまった、あの日。

氷漬けにされる寸前の記憶は残っている。

生き残れる確率は、間違いなくゼロ。

死を覚悟したこと自体は、これがはじめてではない。

アラバスタで崩れゆく神殿の中、深手を負い死を覚悟したロビンは、ほっとしていた。

ようやく終われるのだ、と。

語られぬ歴史を紐解くことはできなかったし、オハラの遺志をつなぐこともできなかったけれど、その悔しさにあきらめと絶望がどろどろにまじりあったような疲労感が勝り、もういいのだ、と思えた。

もう、解放されてもいいのだ、と。

けれど、今回は違った。

凍らされた部分から体の感覚が消えていく中で、頭をよぎった、ひとつの疑念。

ロビンの想いは、その深さに足るほど十分に、航海士に伝わっていたのだろうか?

ロビンがこの20年の中で……いや、生まれてから今までに経験したことのない、狂おしいほどにその存在を求めてやまない愛情は、あますところなく航海士に伝わっていたのだろうか?

母とオハラの遺志が途切れてしまったことよりも、自分の想いが伝わっていたかどうかが不安になり、悔いるなど、今思い返せばほんとうにどうしようもなくおろかしい。

しかし、語られぬ歴史はこの世界にポーネグリフが残る限り、いずれまた誰かが紐解き、現在に過去のひとびとの声を伝えようとするだろう。

しかし、この想いにかたちなどない。

かたちになど、残せない。

だからこそ航海士の心に刻む必要があったのだと思う。

決して消えないように、刻み込みたかったのだと思う。



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