Side_Robin_2



時折肌をなでる夜風は、やさしく追憶を招く。

あのとき航海士は、さみしさや無力感は一種の引力だと思う、と言った。

『しみじみ無力を感じたら、人は寄り集まるしかないわけでしょ? つくづくさみしいって思ったら、人は寄り添いあうしかないわけでしょ?』

無力を感じても、寄り集まる仲間はいなかった。

さみしいと思っても、寄り添いあう人はいなかった。

それがロビンが歩んできた20年という月日。

そういう時間を重ねるうちに、ひとを求めることも忘れてしまった人間は、どうしたらいいの?

そう思いもしたけれど。

航海士の言葉は、ロビンの胸の奥深いところを確かに揺らした。

それはもしかしたらこのひとたちが、ロビンと寄り集まるひとたちなのかもしれないと。

もしかしたら航海士が、ロビンと寄り添いあうひとなのかもしれないと。

もしかしたらこの船のクルーたちが、20年前のあの日にサウロが言った、ロビンを待っている仲間なのかもしれないと。

そんな、自分に都合のいい勘違いをしたから。

『あんたはあんたのさみしさが誰かに届くの、待ってればいいのよ』

そう言ってくれた航海士に、あまやかな夢を見てしまった。

どうか、私の心を見透かして。

どうか、この想いに気づいて。

どうか、私をあまやかして。

10歳も年の離れた女の子にそんな風に期待してしまう自分は、あきれるほどに自分勝手で、無様で、滑稽で、見苦しくさえあるのだとわかってはいたけれど、止められなかった。

はたから見てどう映るかなど、そもそもどうでもよかった。

実際、航海士のくれる言葉も、ぬくもりも、笑顔も、どこまでもあまくロビンの心を夢の中へと沈みこませていったのだ。

航海士のやさしさにあまえて、ロビンは航海士がくれるものを、ただ受け取ればいいだけだった。

ロビンは存分に酔いしれることができた。

それだけでは飽きたらず、生まれてはじめて抱いた狂おしいほどに誰かを求める気持ちを知っていて欲しいと、そう思ってもいたのだ。

それはまぎれもなく、ロビンの歪んだ欲求。

航海士が気づいてくれなければ、この想いを知るひとは誰もいなくなってしまう。

語られぬ歴史がなかったことにされてしまうのと同じように、知る者のない想いはどこへも届かない。

誰かを想う気持ちというものが、決して片方の心だけでは完結しないということに、航海士との時間を重ねていくうちにロビンは気づいてしまった。

ただ好きなだけでいい。

ただどこかで笑っていてくれればいい。

そう思っていたはずなのに、実際には、呆れるほどに欲深い自分が心の奥底にはひそんでいたのだ。

せめて私の想いを知っていて欲しいと、ロビンはずっと願っていたのだと思う。

心に生まれた誰かに焦がれる想いは、思慕のまなざしを向けるそのひと自身に認めてもらう必要があったのだ。

ふたりの未来を望んでいるわけではないロビンがそういう態度をとることは、ふたりで築く未来を願う航海士にとって、残酷な態度であるとは知りながら……

けれど、そんな事実にはふたをして、醜い自分から目を背けて見ぬふりをしながら、ロビンは航海士に呼びかけ続けた。

どうか、気づいて、と。

あなたにまなざしを向ける私に。

あなたの言葉を待つ私に。

あなたに触れられるのを待つ私に。

不意にまぶたが熱くなり、涙がこぼれ落ちそうになるほどに、あなたに焦がれる私の心に。

ときに胸をかきむしりたくなるほどに、あなたを抱きすくめたくなる私の衝動に。

どうか。

気づいて。

そう、呼び続けたのだ。



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