Side_Robin_1
表面的にはいつもと変わらない夕食のあと、ロビンは甲板に出た。
船室の方からは、食事を終えたばかりのクルーたちがにぎやかに笑いあう声が聞こえてくる。
ロビンはその声を背中に、船首の方へと静かに足を進めた。
一歩、また一歩と、足を運ぶたびに、遠のいていく声。
海賊船としては小さな船なのに、たった数歩船室から離れただけで、賑わいは遠のく。
ほんの少し声が遠ざかっただけでものがなしさを覚える自分の感傷に、ロビンはひとり、ふっと息を漏らすように笑った。
船縁を前に立ち、夜の闇と水平線とがとけあったはるかかなたを見やる。
星が、きれいな夜。
夜風は涼しく、肌に心地よい。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
なんとはなしに、ロビンは空に輝くひときわ明るい星を中心に、星の数を数え始めた。
よっつ、いつつ、むっつ。
『死んだ人間は星になって、空から私たちを見てくれているんだよ』
……なんて使い古されたノスタルジー。
そんなもの、なぐさめにもなりやしないけど。
ななつ、やっつ、ここのつ、とお。
宇宙にある星の数は、今までこの世界に生まれ落ちた人間の数に等しいのだと、幼い頃に読んだ本に書かれていたから。
夜空に輝く一等星が、母であり、クローバー博士であり、サウロなのだと思っては自分をなぐさめたことを不意に思い出した。
広大な宇宙で自分自身を燃やして輝きを放つ星たちは、この惑星に住む短な時を生きる命とはなんのかかわりもないのだと、科学は伝えていたのだけれど。
そんなおとぎ話を信じることでしか乗り越えられない孤独な夜は、幾度もロビンに訪れた。
『生きて』ていう母の言葉にすがりながら年を重ねて心を殺し、生かされた惰性でなんとか生き延びてきた日々の中で、その習慣は忘れ去られていた。
けれどいつだったか、航海士に『星が好きか』と尋ねたのは、心の片隅に引っかかるように残っていた、そんな記憶のせいだったのかもしれない。
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