Side_Nami_5



ナミはロビンに『好き』なのだと自分の想いを告げた。

ナミの気持ちはもう、ロビンに預けたのだ。

そこにはもう、受け取るか、突き放すか、そのふたつの選択肢しかないのに、ロビンはそれを選ぼうとさえしていない。

それが、断りたくても突き放せない残酷なやさしさだとか、受け入れたくとも迷ってしまうそんな躊躇ならば、まだよかった。

けれど、ロビンの場合はそうじゃない。

ナミとの時間を手放したくない。

けれど、それを失ったときのことを考えると、確かなかたちにするのは怖いから、いざというときにははじめからなかったのだと自分に言い聞かせることができるように、曖昧なこの状況を選ぶ。

でも、そんな子どもじみたわがままに付き合っていられるほど、もう、ナミの心には余裕がないのだ。

これからのことを考えたくないロビンと、これからをふたりで歩いていきたいナミ。

これからのことを考えたくないから、ふたりの関係を曖昧なままにしておきたいロビンと、これからをふたりで生きていきたいから、ふたりの関係を形にしたいナミ。

ナミとロビンが歩む道は、どこまでいっても平行線で、交わりようがない。

体を重ねたところで、ふたりの想いがこれだけすれ違っていたら、ふたりの未来は交差していかない。

この恋は、ほんとうにどうしようもないほどの、行き止まりの恋なのに……

それでも、ロビンを一目見ただけで、心臓は胸の中を暴れるように強い収縮を繰り返し、血液が体中を駆け巡る。

ずるいひとだとわかっているのに、その声音はやさしくナミの鼓膜を揺らし、その表情はやさしさをたたえてナミの心を揺らす。

その言葉を理解すれば、言葉にこめられた想いはやさしく心に落ちてしみこむし、その手に触れれば『冷たい手のひらを持つひとはやさしいひとなのだ』という俗説を思い浮かべて泣きたくなる。

どうしようもなく自分勝手なひとだとわかっているのに、その脆ささえもいとしさに変えるような、そんな声や姿をしているから、ナミは手を伸ばさずにはいられない。

残酷なまでに身勝手で、ずるいくらいにやさしいロビン。

そんなロビンに惹かれずにいる方が無理だったのだ。

たぶん、ロビンがやさしいだけのひとだったら、ナミはこんなに惹かれなかったのではないか、とさえ思う。

この船の誰よりも脆くてさみしがりやのくせに、欲しいものを欲しいと言えず、失うことを怖れては『何もいらない』と強がる子どもじみた姿が、この胸をかきむしりたくなるほどにいとおしいだなんて、たいがい自分もどうかしている。

けれど、ロビンが笑うだけで抱き寄せたくなるし、悲しんでいれば寄り添いたくなる。

ロビンというその存在を認めるだけで、手を伸ばし、触れたくてたまらない。

ロビンがほしいと体中がわめいて、うるさくて、ナミの意思ではどうにもできない。

この想いを、どうやったらあきらめられる?

この恋は、どうやったら捨てられる?

「もしもあたしが、もっかい抱かせてって言ったら、ロビンはどうするの?」

「……」

しばらくの沈黙のあと、ようやくそう口にしたナミに、ロビンは何も言わなかった。

「お好きにどうぞ、ってことね」

ナミはふっと息を漏らすように笑うと、ロビンの頭に手を伸ばし、髪の毛ごとぐしゃぐしゃっとなでた。

ロビンは意外そうな顔をしたけれど、ナミにただ黙ってなでられているだけだった。

あんたは、いつもそうよね。

欲しいものを欲しいと言わないことであきらめて、何の期待もしていない。

あたしに、何の期待もしていない。



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