Side_Nami_3



「ロビン」

ロビンの傍らに立ってその顔を見下ろして吐き出した声は、震えた。

「なあに?」

対するロビンの声はいつもの調子。

本から上げた顔には、いつもの穏やかな笑顔。

刹那、昨夜のロビンの姿が脳裏にフラッシュバックしそうになって、ナミは慌ててその映像にふたをした。

あの濃厚なまでのあまやかな時間を思い起こしてしまえば、ロビンとまともに話などできない気がしたから。

「何で、起こしてくれなかったの?」

「特に、理由はないけれど……」

「ウソ」

ナミがロビンの言葉を断定的に否定すると、ロビンは少しだけ眉を下げた。

こんな状況にもかかわらず、この少し困った顔も好きだなと反射的に思ってしまう自分は、もう、このひとなしでは何もできないのかもしれない、とさえ思う。

「今までだって、頼まれたとき以外は起こさなかったでしょう?」

確かに、天候の変化に敏感に目を覚ましてしまうナミは、眠れるときに眠っておかないと体がもたないから、ロビンに『起こして』と頼むのは島に停泊して測量や買い物に行きたいときぐらいだった。

「そうだけど、今回は別でしょう?」

「そう、かしら」

どこまでもしらをきるつもりか。

そう思うと、全身から力が抜けてしまったように体が重く感じて、その場に座り込んでしまいたくなった。

「あたしは、あんたが好きって、もう言った」

なけなしの気力を振り絞って、ナミはそう告げる。

「……そうね。聞いたわ」

「ロビンのことが好きなあたしが、ロビンを抱こうとして、ロビンはそれを拒絶しなかった」

いい加減にしてよ!

またそう叫びたくなって、けれどこんなところで叫ぶわけにもいかなくて。

代わりに、ナミはぐっと手を握りしめて、手のひらに爪が食い込む痛みに集中した。

「……ええ、そうね」

「それって、特別なことじゃないの?」

ロビンの変わらない表情から、次の答えはなかば予想していた。

「誰かが私を抱こうとして、私がそれを拒絶しないのは、特別なことではないわ」



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