Side_Robin_4



ロビンがハナの手を消すと、まなざしを交換しあう空気の緊張がゆるんだ。

ロビンのすぐ下にいる航海士の頬に、ぽたり、ぽたりと、ロビンの涙が落ちる。

航海士は息を吐くようにふっと笑うと、ひどく穏やかな表情でロビンに手を伸ばした。

「いいんだよ、ロビン」

航海士はロビンの目尻をぬぐったけれど、ぬぐった先から涙はこんこんとあふれてきた。

航海士は片肘をついて体を起こし、止まらない涙を唇で吸った。

「……よくなんて、ないわ」

ロビンは嗚咽しながら、なんとか言葉を発する。

「私は、あなたに、何も返していないのに……こんな……」

にじむ視界の向こうで、航海士の表情はよくわからなかった。

けれど、ロビンのすべてを受け入れてくれるような、そんなやさしい声が語りかけてくる。

「なんだって、あげるよ。それでロビンが生きられるなら」

「そんなの、不公平だわ」

「不公平でもいいよ。それでロビンがいてくれるなら」

「私は……私は、なにひとつ……あなたに……」

「なにひとつなくたっていい。そのままのロビンひとりがいればいい」

もう、ダメだ。

何を言っても航海士のやさしさにさとされる。

そのたびに、心が揺らぐ。

すべてを投げ出して、あたたかなぬくもりの中に身をゆだねたくなる。

でも、そんなことはあってはならない。

ロビンがそうしてしまえば、この船はもはや破滅に向かうしかない。

たいようだって、日々膨張していく宇宙の無限の闇の中にあっては、たったひとつの点にすぎないのだ。

それでも強く輝けるのは、自分自身を燃やして、宇宙の中に居場所を作っているから。

闇が自身の中に、光を孕むのを許しているから。

けれどロビンは、宇宙の闇よりも暗い、漆黒の存在だ。

存在することを許されない、夜よりも深く暗い黒。

自身を燃やしてまで輝く光を、そんなロビンの中にのみこむわけにはいかない。

「ごめんなさい、航海士さん」

ロビンは体を起こして顔を背ける。

この場を離れなければ、ロビン自身の闇が、航海士の未来を奪ってしまうから。

「ほんとうに、ごめんなさい」

そう言ってロビンが航海士から離れようとした瞬間。

今度はロビンが、強く腕を引かれた。



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