Side_Nami_4



それでも今日のロビンのうなされかたはいつもと違うように思えて、ナミは寝返りをうち、ロビンの方へと体を向けた。

少し体を起こしてロビンの顔を見ると、眉間にしわを寄せ、何かに耐えるように唇を結んでいる。

窓から差し込む月光に照らされた額には、汗がにじんでいるようだった。

呼吸が浅くなるのはよくあることだったけれど、ここまでのうなされかたは初めてだ。

青キジと再会してしまったことが、ロビンの傷口をえぐるように広げ、過去の痛みを揺り起こして夢に見せているのだろうか。

ナミは体を完全に起こして座り、ロビンを現実へ引き戻すために手を伸ばした。

いつものロビンなら、ナミが体を起こした時点で目を覚ましたに違いない。

それが身じろぎもしないのは、記憶の深い深い水底から、ロビンを傷つけてきた過去がよみがえっているからなのだろう。

「ロビン」

ナミはロビンの名前を呼んで、肩を軽く揺らした。

しっとりと汗をかいている肌は、ひんやりとしている。

「ロビン」

目を覚まさないロビンを、もう一度軽く揺すると、ロビンは唐突に目を開いた。

夢の名残を天井に見ているかのように、虚空を見つめる瞳。

恐れを反映した、少し荒い息。

「ロビン、うなされてたわよ」

急に現実に引き戻されたロビンを安心させたくて、ナミはロビンの前髪をかきあげるようになでる。

そうすると、ロビンの視線はひどく緩慢にナミの方へと移動した。

細い指先が、おずおずと伸ばされて、ナミの頬へ触れる。

「……」

そうして、かすかに動いた唇が、かたどった文字は……

『ナミ』

声にはならなかったけれど。

確かにロビンは今、ナミの名前を呼んだのだ。

悪い夢から覚めて最初に映した自分を、『航海士さん』ではなく『ナミ』と、その存在を確かめるように、すがるように呼んだのだ。

そう気がついて、みぞおちから何かがせりあがってくるように苦しくなった。

同時に、まぶたの奥が焼けつくように熱くなる。

その痛みも苦しみも全部、慟哭するように吐き出しそうになったちょうどそのとき、引かれた腕。

一瞬、何が起こったのか、わからなかった。

混乱して、あふれだしそうになった慟哭は再び飲み込まれる。

代わりに、体はあたたかくやわらかな感触に包まれた。

ナミの腕を引っ張るように身を起こしたロビンに、そのまま引き寄せられ抱きすくめられているのだと気づいたのは、耳元で小さく嗚咽するロビンの声に気がついたときだった。

ナミを抱きしめる腕の力の切迫した強さが、ロビンが胸に抱えてきたかなしみの強さなのだと思った。

肩に爪が食い込むほどにすがりつく手のひらの力が、ロビンが心の奥底で押さえつけていたさみしさの強さなのだと思った。

「大丈夫だよ、ロビン」

声を押し殺すように泣くロビンに、語りかける。

「もう、いいんだよ」

もう、心を押し殺したりしなくていいんだよ。

何もかもを、ひとりで抱え込まなくてもいいんだよ。

ロビンの嗚咽は、こらえようとすればこらえようとするほどに強くなった。

「あたしが、いるから」

やっと痛みをそばにいる誰かに……そばにいるナミに解放できたロビンを、抱きしめ返すようにその背中に腕を回す。

「隣に、いるから」

ロビンが不安になるたびに、何度だって言い続けよう。

もう、いいんだよ。

もう、大丈夫なんだよ。

ロビンが生きてきた時間が、どんなにかなしくても、さみしくても、痛くても。

これからは、あたしが一緒にいるから。

あたしが一緒に飲み込んであげるから。

そうすれば、これからロビンに訪れる、かなしいことも、さみしいことも、痛みを感じる出来事さえも。

ふたりが一緒に歩き続けた、そんな思い出に変わっていくから。

だから、一緒に歩いていこうよ、ロビン。

どこまでも、ふたりで。



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