Side_Robin_1
何を勘違いしていたのだろう。
何を夢見ていたのだろう。
生きている、ただそのことさえ許されなかった自分が。
存在する、そのこと自体が罪と言われた自分が。
思い違いも、はなはだしい。
青キジは、それを思い知らせに来たに違いない。
生き延びるために、今までロビンが踏みつけにしてきた様々なひとの記憶が、『何故おまえひとりがそこで笑っているのか』とロビンを責める。
『生きていることさえ許されないおまえが、あたたかな場所にいられるわけがないだろう』と嘲笑う。
……
オハラが地図から消去されてからの20年間。
耳に残る、母の「生きて」という言葉に突き動かされてここまではきたけれど、自分から「生きたい」なんて望んだことが、果たしてあっただろうか。
利用されて、裏切られて、逃げて。
そんなことを繰り返しているうちに、利用されるよりも先に利用して、裏切られるより先に裏切って、盾にされる前に盾にして逃げる、そんな術ばかりが身に付いた。
そんな毎日を送るうちに、ロビンはまるでオハラと母の遺志を受け継ぐだけの、亡霊のようになっていたのだと思う。
あのとき母は、「生きて」と言ってロビンに未来を託した。
けれど、ロビンがひとりきり残された世界は、あまりに冷たくて、明日も見えないほどに闇は深くて……
時々、考える。
あのとき母の腕の中で死んだ方が、自分はしあわせだったのではないか、と。
続いていく未来なんて、いらなかった。
あのとき母とつないだ手から伝わってきたぬくもりと、母の両腕が自分を抱きしめてくれた力が最後の記憶になった方が、ロビンには幸せだったのだ。
母からの「生きて」という言葉は、まるで呪縛だ。
死んだ方がずっと楽と、何度思ったかしれない。
世界は想像以上に悪意に満ちていて、降りそそぐ悪意の雨に立ち向かうことなどできなかった。
悪魔の子と呼ばれた自分なのに、心はその雨にあらがうこともできずに打たれ、こごえ、そのまま凍りついた。
生きのびるだけで、精一杯だった。
そうしているうちにいつしか、この身に降りかかる痛みもかなしみも苦しみも、すべて切り離す術を覚えていた。
いつの間にか、すべてはひとごとのようにしか感じなくなっていた。
ロビンは現実とガラス一枚隔てた向こう側に自分を置き、自身に降りかかる出来事を、傍観者のように眺めているだけ。
痛みも、かなしみも、苦しみも……
違う世界に置いてしまえば生きられる。
生きのびることだけなら、できる。
そうして母の……オハラの遺志をつなぐためだけに生きてきたロビンは、あの砂漠の国を一度は死に場所に決めた。
やっと、死ねると思った。
やっと、解放されると思ったのに。
ロビンを生かしたのは、またも『D』の名を継ぐもの。
麦わらの少年だった。
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