Side_Nami_8



「……」

ロビンは目を伏せて、視線を逸らす。

「あたし、言ったよね? ロビンに明日も明後日も、新しい思い出が欲しいって思える今を、見せたいって」

ふるえるまつげに口づけたい衝動を、ぐっとこらえた。

「それなのに、ロビンは過去にばっかり目を向けるから、むかついた」

ぐっとこらえて、少し体を伸ばし、ロビンの頭も引き寄せて、おでことおでこをこつんとぶつける。

「このやたらとできのいい頭に、何をいっぱいためこんでんだか知らないけどさ……それは今、この瞬間からつながっていく未来に、勝るものなの?」

ロビンの鼻先が皮膚に触れてくすぐったい。

「こうしてたらさ、伝わらない?」

吐息さえも触れ合う距離でささやいたナミの言葉を拒絶するように、ロビンは小さく首を振る。

「あたしの頭の中身」

そう言うとロビンは、空いている方の手でナミを引き離した。

「やめて、航海士さん。私には……」

「やめない」

動く、と決めたのだ。

だから、もう止まらない。

目を合わせないロビンを下からのぞきこんで無理矢理目を合わせると、また逸らされてしまったから、肩ごと抱き寄せて、耳元に唇を寄せる。

ロビンの体はびくりと震えたけれど、もう、離すつもりなんてなかった。

「好きよ、ロビン」

口にした瞬間、ロビンの体がこわばったのがわかる。

ナミより身長が高いはずなのに、これ以上力をこめれば折れてしまいそうなきゃしゃな体は、ずっと小さくなってしまったように感じた。

「大好き」

「だめ!」

ふたりの声が同時に響く。

「だめなのよ、航海士さん……私には」

「だめじゃない」

ナミはなだめるように……少しでもロビンのおそれが小さくなるように、ロビンの肩をやわらかくなでたたく。

「全然だめなことなんてないよ、ロビン」

泣いているのだと、思った。

受け入れたい心と、受け入れたいと願う自分自身を拒絶する心。

そのふたつがどうしようもなくせめぎあって、ロビンは体全部で泣いているのだと思った。

「大丈夫だから」

自分から動き出したことが、正解だったのかはわからない。

ただ、ロビンを不安定にしてしまっただけなのか。

それともロビンを、あきらめと終わりの世界から引き上げて、一緒に未来を信じられる『今』を築いていける一歩になるのか。

ナミ自身も、不安でたまらないけれど。

耳たぶから目尻へ。

目尻から頬へ。

頬から唇へ。

順番にやわらかく落とした口づけを、ロビンはただ、大事に受け止めてくれたから。

「大好きだよ、ロビン」

もう一度額を合わせて、ナミは想いを言葉に乗せる。

ロビンは静かに泣くばかりで、何も答えなかった。

けれど。

走り出した想いは、もう、止められない。



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