Side_Nami_6



いったい何が正解なのだろう。

たとえばロビンに想いが通じ合っている確証がないから、ナミの方から「好き」と言わせたいだけなのであればいいけれど、それも違う気がする。

ロビンの瞳はナミにその想いを伝えているけれど、そこに変化への期待があるわけではない。

ナミのように、ふたりの関係を確かなものにしたいという、そんな苦しくてさけびだしたくなるような渇望があるわけではない。

何より、ロビンだってもう、わかっているに違いないのだ。

ナミだって、ロビンのことがいとしくてたまらないのだと。

ナミだって、ロビンのことが、どうしようもなく好きなのだと。

その心が、届いて、伝わって、ふたりの間に流れる時間を埋めているのは愛情なのだと、とうに知っているのだ。

だって間違いなく、ナミの目も伝えているから。

あんたが好き、って。

それは、ロビンの気持ちが自分に向けられているのだと、ナミがどうしようもなくわかってしまったのと同じように、ロビンにもまた、どうしようもなく伝わっていくもの。

「何で、気持ちが変わったの?」

ナミはロビンがどうしたいのか、顔を上げて、探るように問いかける。

「あたしと一緒に見たからいい思い出になったって、そう言うつもり?」

「……そうだと言ったら、航海士さんは、うれしい?」

否定のない返事は、ロビンの場合は肯定の返事。

違うときには、「いいえ」とロビンはきちんと言うから。

……そもそも、これからのふたりの行く先に、正解なんてあるんだろうか。

でも、今まで通り、何も言葉にはしないままに、曖昧なぬくもりの中に身を置くことが正解だとは思えない。

たとえそれがナミもロビンも傷つかなくて済む正解だったとしても、そんな『ただしさ』なら自分はいらない。

「……むかつくだけね、そんなの」

ロビンの心を探るために、そろりと踏み出したはずの一歩は、ナミの心のやりきれなさが隠しきれずににじみだしてしまったのだろうか、いやに強く響いた。

「それは……残念だわ」

苦笑しながら言ったロビンは、少しさみしそうではあるけれども、残念そうではない。

だから疑念は、確信に変わった。

やっぱりロビンは、ふたりの未来なんて見ていない、と。

未来を見据えず、ただこの瞬間に、ふたりの間に横たわるあたたかな愛情にひたっているだけの、何も欲しがらないロビンのままなのだ、と。

それは、今訪れたこのひとときの心地よさを守るために、未来を投げ出しているのと何が違うのだろう。

そんな望みのない世界を生きるために、この船は進んでいくわけではないのに。

永遠なんて言葉、今まで信じていなかった自分だけれど。

ふたりが互いに想い合っていて、それぞれが唯一で、大切で、かけがえがなくて、何に変えても守りたくて。

そんな相手が見つかるなんて、それこそ奇跡みたいなこと。

それならば、その時間を永遠にしようという努力をするのが、ナミにとっての『ただしさ』なのだ。

永遠は無理でも、少しでも未来につなげようという努力はしていきたい。

していきたいし、できると思う。

それなのにロビンは、未来を投げ出して、今、このひとときだけで満たされてしまうから、こんなにもやりきれなくて、不安なのだ。

ナミは未来を築いていきたいのに、ロビンはここにとどまりたいと願っているだけで、根本的にすれ違っているから。

この今が、できることなら明日も続きますようになんて、ささやかに願うだけじゃ自分には足りない。

青キジに凍らされてしまったロビンの心は、またすべてをあきらめた心に戻ってしまったけれど、ふたりの間の『今』だけは残された。

ならばもう一度、ロビンに未来を信じてもらわなくてはならない。

ふたりの間にあるものが、次の瞬間にはかげってしまう、束の間の日だまりのようななぐさめの時間なんかじゃなくて、互いがいるからこそ笑いあえて、互いがいるからこそ勇気が生まれて、互いがいるからこそ歩いていける……

そんな風に、ふたりで寄り添いながら未来を照らすことのできる、そんなしあわせの時間であって欲しい。

でも、この『今』を未来につなげていくのは、ナミひとりではできないから。

ロビンにどんな過去があったとしても、それが傍目には青キジが表現するようなものにしか映らなかったとしても、ロビンの20年間に、この船以上に……自分以上にロビンを知ることができた人間はいないと自信を持っていえる。

ロビンの過去が、ロビンのこれからを脅かすなら。

ロビンの過去が、ふたりの想いがつながっていくことを邪魔するのなら。

あたし、何とだって、誰とだって、戦うよ。

だからどうか、信じて、ロビン。

あたしたち、一緒に歩いていけるんだって。



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