Side_Nami_5
「寒いの?」
ロビンに問いかけられて、ナミははっと我に返った。
沈黙を破ったのはロビンだけれど、その前に考えに沈んでしまったのはナミだから、ふたりの間の無言のコミュニケーションを途切れさせてしまったのは自分だ。
「うん、ちょっと寒いかも」
寒くなんてなかったけれど、ナミはそう答えた。
だってロビンは、途切れてしまった想いの橋をもう一度かけたくて、ナミを呼び戻したのだろうから。
「やっぱり、私ひとりが毛布を使っていては悪いわ」
「だから、ケガ人はおとな……きゃっ!」
急に体が宙に浮き上がった感覚がしたと同時に、ナミはロビンが毛布の中に作ってくれたスペースに、すとんとやわらかく落とされた。
「毛布も半分こ、しましょう?」
やられた。
そう思った。
もうそんなの、言ってるも同然じゃない。
そばにいて、って。
ロビンの低い体温でも、ロビンの花の香りをまとった毛布の中の空気は、十分にあたたかかった。
「いつだったか、こうしてふたりで並んで、星の話をしたわね」
触れ合う腕と腕、体と体、脚と脚。
それなのにロビンは空を見上げて、ナミの方を見てはいない。
ここまでしといて、どうしてあんたは心と言葉を触れ合わせようとしないわけ?
そんなやりきれなさをぐっとこらえたら、何も返事はできなかった。
「私がまだ船に乗って間もない頃だったわ。星が好き? って私が訊いたら、あなたは好きでも嫌いでもない、と言った」
「……よく、覚えてるわね」
動くべきか、動かざるべきか。
迷いを押し殺して、感情を押し殺して、やっと吐き出した声は、少しかすれた。
「あのときは私も好きか嫌いか考えたことがない、と言ったけれど……」
ロビンはそこまで言うと、ナミへと視線を移動させた。
いつも穏やかなオーシャンブルーの瞳は、ランプの灯火の下、漆黒の夜の海のようにきらきらと輝いていて、どこまでも深く、ナミをおぼれさせてゆく。
「今は、好きだと思うの」
そう言ってナミにほほえみかけたロビンから、ナミは目を逸らさずにはいられなかった。
その目は、何かがかけてしまった、からっぽの瞳じゃなかったから。
目を逸らし、うつむいて、それでも足りなくて、膝小僧に額をぐりぐりと押しつける。
そんな目で見ないで。
好きだ、と言ってしまうじゃない。
いとしくてたまらないものを見るような目で、あたしを見ないで。
あんたの目が言うように、あたしも好きよ、と言ってしまうじゃない。
うつむいてしまったナミを見て、「どうしたの?」とか、一言も訊かないロビンは、間違いなく確信犯。
ナミに気づかせたくてたまらないのだ。
あなたが好き、と。
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