Side_Nami_4
狭い見張り台では、折り曲げた脚と脚がぶつかりあう。
毛布ごしではあっても、ぶつかるたびに、膝が、ふくらはぎが、足首が、指先が、熱を持ったようにじんとする。
ナミとロビンはお互いに足の置き所をさぐりながら、交換こにタンブラーの中のコーヒーを飲んだ。
ロビンが持ってきたタンブラーは、何故かひとつだったから。
ハナの手があれば、自分の分だって持ってこれただろうに。
沈黙の中、響くのは穏やかな波の音。
その音に合わせて揺れるこの船のうえで、ナミの心と同じように、ロビンの心も揺れているだろうか。
ナミがコーヒーを一口飲んでロビンに差し出すと、ロビンは本物の手を伸ばしてタンブラーを受け取る。
ロビンがそのタンブラーから同じようにコーヒーを飲んでナミに返すから、ナミはそのタンブラーを受け取る。
その繰り返し。
タンブラーを受け渡す際にかすめる指先もまた、しびれるような熱を持つ。
まるで、ふたりがやりとりしているのは、ふたりがそれぞれに向けあっている想いみたい。
そんなことを考えていると、またやりきれなさに襲われてしまうから、ナミは再びロビンにタンブラーを渡すと、自分の曲げた膝をぎゅっと抱えた。
たぶん、勘違いではないと思う。
ふたりの間に訪れた、この静かな夜の沈黙を埋めているものは、互いが互いを想う愛情だ。
ふたりが言葉の代わりに贈りあっては飲み下しているものが、愛情と呼ばれるものでなければ、他になんだというのだろう。
言葉ではとても表現なんてできない。
けれど。
届いてる。伝わってる。
大事に抱えた想いを言葉に乗せてしまったら、その瞬間に今までふたりで積み重ねてきた時間すべてが崩れてしまうような気がするから、声になんて乗せられない。
そんなとても臆病なふたりだけれど、それでも。
届いてく。伝わってく。
それがわかるから。
この繰り返しの向こうに、ふたりの未来があるのだと。
その『いつか』を信じて、今を重ねていけるのだと。
そう思っていたから、ナミも踏み出さずにいたけれど……
『それでいいのか』と自分の中の不安がわめく。
『動け』と何かにせかされている。
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