Side_Nami_3
「もう、起きていいの?」
見張り台に上がってきたロビンにナミは問う。
チョッパーからは安静を言いつけられていたはずだ。
「少し、外の風に当たりたくて」
ロビンはほほえんでナミに返す。
そのほほえみを見て、まただ、とナミは思った。
焦燥のような不安が、むくむくと頭をもたげてくる。
穏やかなのもきれいなのも今まで通りなのだけれど、どこか空っぽのように感じる、ロビンの小さなほほえみ。
「船医に怒られるわよ? いつもはちっちゃくてかわいくても、説教が始まるとほんとに長いししつこいんだから」
その不安に支配されそうになって、ナミは気持ちを切り替えるように無理に笑いながら言った。
そうしなければ、問い詰めずにはいられなくなってしまいそうだったから。
あいつは何をしにきたの?
あいつはロビンの何を知っているの?
ロビンはいったい何を恐れているの?
この船から降りようなんて、思ってないよね?
そう、問い詰めずにはいられなくなってしまいそうだった。
青キジに凍らされたのは、ロビンの体ばかりではない。
青キジは、ロビンがメリー号で少しずつ取り戻しつつあった感情とか、笑顔とか、希望とか、そういったものまでことごとく凍りつかせていったのだ。
そしてそれは体と違って目に見えないものだから、扱いはひどくデリケート。
どんなに優秀な船医でも、心の問題まではどうにもできないこともある。
「はい、どうぞ」
ロビンはハナの手で持っていたらしいタンブラーをナミに差し出した。
「ありがと」
代わりにナミはロビンを、先ほどまで自分がくるまっていた毛布で包んで座らせた。
少しでも青キジに凍らされた心があたためられればいいと、そんなことを願いながら。
「これでは、あなたが寒いわ?」
「病人が、何を言ってるのよ」
ナミはロビンに向き合って座り、毛布を返そうとしたロビンを一笑に付す。
この島はあたたかな気候だから、起きてこうしてロビンと向き合っていれば、寒さなんて感じない。
「正確には、病人ではないわ。病気ではなくて凍らされたのだから、どちらかと言えばケガ人……」
「はいはい、ヘリクツは受け付けませーん」
ナミはタンブラーを傾けて、中身を口に含む。
広がるやわらかな酸味は、サンジがいつも淹れるものとは違う味だった。
チョッパーはともかく、よくもまあ、サンジの目をかいくぐってコーヒーまで淹れてきたものだと感心する。
でも、ロビンの淹れてくれたコーヒーは、ほんとうにほんとうに、とにかくあたたかくて、そのあたたかさに目の奥がしみるみたいに痛んだ。
もしかしたら、このコーヒーを飲めなくなっていたのかもしれないと……飲めなくなってしまうのかもしれないと、そう思ったら、余計に泣きたくなった。
[ 57/120 ][*前] [次#]
[目次]