Side_Nami_1



ふざけんじゃないわよ。

そう思った。

あんたが何を知ってるってのよ。

そうつかみかかって、思い知らせてやりたかった。

好き放題言って、ロビンを傷つけて。

それだけでは飽きたらず、生死の境までさまよわせて。

その圧倒的な力でロビンをとらえるのではなく、傷つけるために現れた、海軍大将青キジ。

悪魔の子、ニコ・ロビンにかけられた7900万ベリーという賞金額は、確かに高額だけれど、海軍大将がわざわざ本部から出てくるほどの額ではないはずだ。

ただ、青キジはロビンの動向をずっとさぐっていたようで、ロビンの過去をこれでもかというほどつついては心をえぐっていった。

それは、いつも冷静でめったに取り乱すことのないロビンが、怒りをあらわにくってかかるほど。

力では決してかなわないと、ロビンならその無謀さをわかっていたはずなのに。

青キジは、いったい何をロビンに思い知らせたかったのだろう。

ロビンが青キジに抵抗したのは、その過去をナミたちに知られたくなかったからで間違いない。

そんな過去を、凍らされた状態から回復したばかりのロビンに尋ねることなど到底できず、不安が重苦しくのしかかっては、胸を支配する。

目を覚ましてからのロビンは、いやに落ち着いていたから。

青キジが帰ったことを確認して、「そう」と小さくうなずいただけで、それ以上ロビンは何も語ろうとはしなかった。

チョッパーに体調を確認されたり、他のクルーたちに心配されたり、そのたびにロビンはみなを安心させるように笑った。

けれど、青キジに出くわす前の笑顔に比べると、その笑顔からは何かが抜け落ちてしまったようにナミには感じられて、言いようのない不安に襲われる。

この船にロビンが乗ってきたばかりのときも、何もかもを諦めたような顔をして笑うロビンを見て悲しくなったり、いらだったりしたこともあったけれど、その時の笑顔ともまた違う気がする。

その欠落した『何か』……この船やクルーたちに慣れて、ナミにふわりと笑いかけてくれるようになったロビンが失ってしまった『何か』の正体がわからないことが、ナミを不安にさせるのだった。

青キジに、ナミがロビンと重ねてきた時間をつきつけて、言ってやりたかった。

あんたはロビンの『ほんとう』を、何もわかっていないくせに、と。

ロビンが過去にどんなことをしてきたのか、何故幼くして高額の賞金をかけられることになったのか、ナミは訊いたことがなかった。

それは他のクルーも同じだろう。

この船に乗るのに、過去なんて関係ない。

過去なんてわざわざ語らなくたって、その人間がどんな生き方をしてきて、どういう人間になったのかなんて、現在の姿に反映されるものだ。

過去にどんな善行を積み重ねてきたって、過去にどんな悪行を繰り返したって、今目の前に立っている姿が、その人間の『ほんとう』なのだ。

その『ほんとう』を見誤るような、この船のクルーではない。

この船のクルーたちの鼻の良さをみくびらないで欲しい。

もしもロビンの『ほんとう』が、青キジの言うようなものだったら、この船のクルーとなることをルフィは認めなかったに違いない。

ナミだってクルーとして受け入れるどころか、どこまでも果てることなく沈み込み、息さえ苦しくなるような、こんな想いを抱かずとも済んだはずだ。

ロビンがクルーとなってからの日はまだまだ浅いものだし、ロビンの動向をずっと追ってきた青キジの方が、ロビンのたどってきた道を知ってはいるのかもしれない。

でも、青キジは知らない。

ロビンがどんなに穏やかな瞳でクルーたちを見ているのか。

ロビンがどんな風にクルーたちに笑いかけるのか。

ロビンがどんな声の調子で、知識を分け与えてくれるのか。

この船のクルーにとってロビンが、もはやかけがえのない存在であることも。

ナミにとってロビンが、手放したくない、誰よりもそばにいたい、たったひとりの人であることも。

青キジは、何にも知らずにロビンを傷つけたのだ。



[ 55/120 ]

[*前] [次#]
[目次]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -