Side_Robin_6
「いい? ロビンちゃん」
やっぱり。
いきいきと楽しそうに輝く航海士の瞳を見て、そう思う。
10歳も年下の女の子に子ども扱いされることが、不思議と嫌ではないどころかうれしく思ってしまうのは、相手が航海士だからで間違いはない。
航海士に子ども扱いされると、あまやかされているようにさえ感じてしまうから。
くすぐったくて落ち着かないけれど、あたたかな時間。
「約束するときには、証がいるの」
「証……」
「そう」
約束の証と小指との関連を見いだせぬまま、ロビンが航海士の小指を見ていると、航海士はじれったそうに口を開いた。
「ほらほら、ロビンちゃん、小指出して!」
ロビンちゃん、と呼ばれるたびに、くすぐったさでどうにも居心地が悪くなるのだけれど、なぜだろう、もっともっと、何度も繰り返し呼んで欲しくなる。
「こう?」
ロビンは航海士と同じように、小指だけ立てた手を差し出した。
「そうそう。そしたら、こうやって……」
航海士はロビンの小指に、自身の小指をあててからめる。
「ほら、ロビンも!」
いつの間にか航海士の表情は真剣なものとなり、『ロビンちゃん』と呼ぶことさえ忘れている。
そんな航海士のかわいらしさに、自然と顔はほころんでしまう。
「笑ってないで、まじめにやる!」
「ふふ……ごめんなさい」
「では、あたし、ナミとニコ・ロビンは約束をします」
ロビンの目をまっすぐに見据えた航海士の瞳に宿る意志の強さに、ドクン、と心臓がひときわ強く収縮する。
いつか読んだ恋物語のように、つながったこの指に赤い色の糸を結びつけることができたなら……
たとえこの指が離れてしまっても。
ふたりが離れてしまっても。
この世界のどこにいたって、つながっていられるのに。
「これから話すことは、絶対に、ふたりだけの秘密なのです」
なんておろかな願いなんだろう。
そうわかっていても願わずにいられないのは、希望なのか、絶望か。
……
信じて進んで行けるだけの強さが、自分にもあればよかった。
この船のクルーたちのように、迷いなく自分を信じて、仲間を信じて、ただまっすぐに自分の望む道を進んでいけるだけの強さがあればよかった。
「ゆーびきーりげんまん、ウソついたらはりせんぼんのーます、ゆびきった!」
航海士はそう歌って、つながった指先をふりほどいた。
浮かべた笑顔の屈託のなさに、何故だか無性に泣きたくなる。
何より絶望するのは、ロビン自身の弱さそのものではない。
弱さも強さも関係なく、この船はロビンの存在そのものを許して、信じてしまうから。
何より絶望するのは、ロビンが一番、ロビン自身を信じておらず、許せもしないことだ。
でもあなたは、そんな私に笑いかけてくれるから。
でもあなたは、そんな私をあまやかしてくれるから。
ただ、あなたへの想いだけが。
私が信じる私のすべて。
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