Side_Robin_5
「ポーネグリフ?」
「これは、秘密のことなのだけど……」
ロビンは唇の前で人差し指を立てて、声をひそめる。
「あなたは秘密を守れるかしら?」
「……は?」
航海士はロビンの言葉の真意を推し量るような、いぶかしげな表情を浮かべる。
「何なの、それ? 子どもじゃあるまいし」
わりと真剣な顔をして言ったつもりだったのだけれど、航海士はごっこ遊びを楽しむような気分ではなかったらしい。
怪訝そうな表情をといた代わりに、苦笑しながらそう言った。
「残念だわ。一度やってみたかったの」
航海士の気分の乗らないことをしても仕方がないので、ロビンも肩をすくめて苦笑した。
「どういうこと?」
「子どもたちがよくするでしょう? これは、私たちだけの秘密ね、って。なんとなく思い出して、せっかくだから今、やってみようかしら、って」
航海士が珍しく子どもじみた様子を見せたものだから、子ども扱いしたくなったなんて言えなくて、ロビンはそんな風に言い訳をした。
ただ、言い訳ではあるけれど、『ほんとう』のことも含んではいる。
小さなころ、にぎやかに遊ぶ島の子どもたちをうらやましく思った日は幾度となくあった。
航海士とふたりだけの秘密を持ちたくなったのも、『ほんとう』の気持ち。
『ほんとう』でないのは、ロビンが航海士と『ともだち』なんていう関係を望んでいない、ということ。
『ともだち』なんておさまりのいい関係で終わるぐらいなら、いっそとことんまで嫌われて、一生忘れえぬほどに憎んで欲しいぐらいだ。
「……そっか」
航海士はどこか神妙な顔をしてうなずいたけれど、すぐにいつもの勝ち気な笑顔を浮かべて、ロビンの前に小指を立てた手をつきつけた。
「じゃ、もちろん、これよね?」
「これ、って……どういうこと?」
差し出された小指の意味がわからずにロビンが尋ねると、航海士は驚いたように目を大きくする。
「どういうことって……ロビン、指切り、知らないの?」
航海士にそう尋ねられて、ロビンはわずかに首をかたむけた。
航海士が出した小指をつかめばいいのかとも思ったが、間違っていたら恥ずかしいのでやめた。
せっかく航海士がかわいらしい面を見せてくれているのに、ロビンが照れてしまえば、力関係は一気に逆転し、ロビンが劣勢になるのは目に見えている。
そこを見逃してくれる航海士ではない。
「そっかあ、物知りロビンにも、知らないことがあるのね」
航海士はひとりで納得するように、「うんうん」とうなずくと、にっと笑った。
その笑顔を見て、ロビンの思いもむなしく、形成は逆転してしまったのだと知る。
これは航海士が、ロビンを子ども扱いしては問い詰めることをたくらんでいるときの、笑顔。
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