Side_Robin_2



「ねえ、どっちがいい?」

航海士が右手に白の、左手に淡いブルーのキャミソールを持って振り返り、ロビンに差し出す。

「どちらも似合うと思うわ」

ロビンがほほえんでそう返すと、航海士は不服そうな顔をした。

「もう、あんたに選んでんのよ、ロビン」

「……そうなの?」

「あんたの服、買いに行こうって言ったでしょうが」

確かにそう言われはしたものの、それはショッピングが好きな航海士が、ロビンを付き合わせる口実なのだと思っていた。

「でも、私はいいのよ。特に不便はしていないし。それよりも、航海士さんの服を選んだら?」

ロビンとしては本心を伝えたつもりだったのだけれど、航海士は眉間にシワを寄せて少しの間ロビンを見据えた後、短くため息をついて背中を向けた。

「……ごめんなさい」

その背中があんまりさみしそうに見えて、ロビンは航海士の背中にそう告げる。

「何が?」

「え?」

謝罪の理由を訊き返されるとは思っておらず、ロビンは戸惑った。

「何で謝るのかって訊いてんの」

航海士の声には、少し苛立ちがにじんでいる。

「私のせいで、気を悪くしたかと思って」

「もう!」

ロビンがそう言うと、航海士はブルーのキャミソールを戻して、白いキャミソールをロビンにあてがうように押しつけた。

「あたしはさ、あんたの服を買いたくて、来たわけ。気を遣ってくれてるのはわかるけど、ロビンもこの船に来てからしばらく経つんだし、ちょっとはわがまま言いなさいよ」

不機嫌さを隠さずに航海士は言ったけれど、口にした言葉の、なんとやさしいことだろう。

わがままを言いなさい、なんて、今まで誰もロビンに言うことはなかった。

航海士の隣にいると、今まで与えられなかったものが両手からあふれるほどに贈られて、心をあたためていく。

「ありがとう、航海士さん。でも、不便をしていないのは本当だから、あなたが好きなものを選んで?」

自分の服を買うよりも、航海士が楽しそうに洋服を選んでいる姿や、買い物を終えてうれしそうにしている姿を見る方がいい。

それは、海賊という稼業をしている以上、すぐにすりきれたり汚れたりする洋服と違って、心の中に大事にしまっておける思い出になるから。

「何よ、服より本の方が欲しいっての?」

それは、欲しいかもしれない。

そう思ったけれど、航海士があまりに拗ねた顔をしているから、なんとなく口に出せなかった。

「いいえ?」

「何で疑問系なのよ」

航海士は盛大にため息をつくと、ロビンの手首を引っ張ってレジへ向かった。

持たされたキャミソールの胸元には、淡いグリーンのラインとドットが入っていてかわいらしい。

「活字中毒なのはわかってんのよ。ウソついたってバレバレ」

途中、航海士はもう何着か空いている方の手に取り、取った先からロビンにあずけていった。

こんな状況でロビンがどこかに行くわけでもなし、手を離した方が楽だろうに、航海士はロビンの手首を掴んだままだった。

くるりと自分の手首を一周するしなやかな指先を見て、焦燥のような、ひりつくような、そんな何か熱いしびれのような感覚が、腰骨から背骨にそってかけあがる。

その指に絡めとられたい。

組み敷かれて、すべてをあばかれてしまいたい。

何もかもを航海士にゆだね、その体温を感じていたい……

その感覚が欲情なのだと理解して、そんな自分のあさましさに絶望した。

「また、ほっぺに書いてある?」

そんな自分をごまかすように航海士にぶつけた質問は妙に子どもっぽくて、自嘲したくなる。

どうかこんなみにくい自分に気づかないでなんて、今更言えるほどきれいなこの身でもあるまいし。

どうかしているとは思っても、悟られたくなかった。

「おでこに書いてある。ほっぺは『遺跡バカ』でうまってるから」

気づかずに、いてくれただろうか。

航海士はそう言ってくくっと笑うと、店員を呼んだ。




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