Side_Robin_1
「ロビン、最近さ、ちょっと変わったんじゃない?」
目の前で服を選んでいた航海士は、唐突にそんなことを口にした。
「そう、かしら?」
ロビンが尋ね返すと、航海士はロビンに背を向けたまま、こくりとうなずく。
「うん、そう思う」
そう言った後に、航海士は再び服選びに戻ってしまった。
少し待ってみても、航海士は「こっちかな」とか「どっちがいいかな」とか、ひとりごとのようにつぶやいているだけで、「どこが変わったと思うのか」と問いかけるタイミングは失ってしまった。
立ち寄った島にはわりと大きな町があって、ログがたまるにも数日かかるとのことだった。
着いた島は夏島ではあったけれど、初夏に近い過ごしやすい気候で、歩いていれば少し汗をかく程度。
「買い物にうってつけの天気だし、ロビンの服ももうちょっと買い足そうよ」と航海士に言われて、船から連れ出されたのが二日目の今日。
やや強引ではあったものの、もちろん、航海士との買い物が嫌なわけではない。
ただ、昨日島の中心部の森に遺跡があるということを聞いて、場所の確認を済ませておいたから、少し予定が狂っただけ。
それでも、航海士が買い物に連れ出してくれてよかったな、と今は思う。
この島を再び訪れることはあるかもしれないけれど、そのときのロビンが麦わらの一味にいる可能性は、とても低いのだとわかっているから。
それは、再びこの島を訪れる未来には、ロビンはまたひとりに戻っていることを意味する。
仮に他の船に乗っていたとしても、この船に一度でも乗り込みそのあたたかさを感じてしまったら、誰といたところでこの身の孤独をまざまざと感じさせるだけに違いなかった。
けれど今、航海士と歩いておけば、次に来たときのこの島は、思い出をよみがえらせてくれる島になる。
ロビンがただ、何もかざらないありのままのロビンでいることを許してくれた唯一の船を、思い出す島になる。
ロビンの心をあたためてくれた航海士との……ロビンが胸の奥底から焦がれてやまなかった航海士との、思い出の島になる。
麦わらの船で訪れた島は、たとえかつて訪れたことがある島であっても、初めて訪れた場所のように感じることができた。
くすんでいた世界が、まるで本来の色を取り戻したように輝き、ロビンの記憶を上書きしていく。
そうして、新たに記憶に刻まれた場所を再び通り過ぎるたびに、ロビンは自分に与えられた様々なものを思い出すだろう。
航海士の心のままにくるくると変わる、ウソのない表情も。
航海士が針路を指し示すときに強く輝く、迷いのない瞳も。
航海士がロビンをからかっては追い詰める、意地悪な唇も。
航海士がロビンを見つめてくる真剣なまなざしも。
『ロビン』とそこにいることが当たり前のように名前を呼んでくれる、航海士の声も。
ロビンの心を揺らしては深くしみこむ航海士の言葉も。
ロビンを子ども扱いしては、ぐしゃぐしゃと頭をなでる手のひらも。
思わずすがりたくなってしまうような、すっと伸びた背中も。
けれどその背中はとてもきゃしゃだから、思わず後ろから抱きすくめてしまいたくなる瞬間も。
みんなみんな、やがてひとりで歩くロビンをなぐさめる、やさしくせつない思い出たち。
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