Side_Nami_6



さて、掴んだこの手をどうしよう、とナミは思う。

つかんでいる理由はないけれど、離すのも嫌だ。

「あれ、またその本読んでるの?」

そんなことを考えていると、不意にロビンの腿の上に置かれている本のタイトルが目に入って、そう尋ねた。

「面白いの? それ」

『花束をキミに』と題されたその本は、いつかチョッパーが借りていったもの。

もっとも、チョッパーが借りていると知ったのは、ロビンがその話をしたからだった。

そのときロビンは、その本がナミの本だと思っていたようだったけれど、ナミ自身にはそのタイトルに聞き覚えもなければ、表紙に見覚えもなかった。

童話のような話を集めた本だとロビンは言っていたけれど、ナミはそういう類の本を読んだりはしないから、アラバスタで大量に本をもらったときに、紛れ込んだのかもしれない。

「あなたの本ではないの?」

「違うよ。あたし、あんまり小説とかは読まないし」

ナミが読むのは、航海に関するものや気象に関するものなど、実利に資するものがほとんどだ。

アーロン一味にいた頃は、そのような夢にあふれた物語やあまったるい恋愛物は空虚にしか思えなかったし、この船に乗ってからは、物語よりも現実の方が楽しくて希望にあふれているから、特に読もうとも思わなかった。

「じゃあ、誰の本なの?」

「さあ?」

ナミが肩をすくめて首をかしげると、ロビンは本の表紙に視線を落とした。

そのついでにするりとロビンの手はナミの手をすり抜けて、コーヒーカップをテーブルに戻す。

あ、と思ったのにあっさり手放してしまったのが悔しかったけれど、こういうときのロビンは実にうまく隙をついてかわすのだ。

「ロビンが何回も読みたくなるぐらい、面白いの?」

悔しさを押し隠して、何もなかった風を装って訊いてみる。

「そういうわけでもないのだけれど……」

ロビンはナミと違って、活字ならなんでもいいようだった。

読む本がなくなったと言って、チョッパーの医学書や薬草の辞典まで読んでいるのを見たことがある。

読む本を選ばないほどに活字中毒なロビンだからこそ、ナミが今まで出会ったどんな人間よりも博識なのだろう。

「小さい頃には、あまりこういう本を読まなかったから、めずらしくて」

「そうなの? ってことは、ちっちゃいときからロビンって難しい本を読んでたわけ?」

そう口にしたら、思わずロビンの小さな頃を想像してしまった。

今でもおおきな子どもであるところのロビンがかわいくてたまらないのに、小さなロビンに出くわしたら、もう、ロビンがどんなに嫌がってもあまやかせるだけあまやかして、離せない気がする。

「この船に乗ったとき、考古学者の家系だと言ったでしょう? 小さな頃から、周りにある本は、そういう類の本ばかりだったの」

「だからって、内容がわかんなかったら外に遊びに行くでしょ? あたしだったら、知恵熱だして寝込んじゃうと思うなあ」

「あら。あなただって、世界地図を完成させることが小さい頃からの夢だったのでしょう? だったら、子どものときからそういう本を読んでいたのではないの?」

「まあ、そりゃそうだけどさ」

確かに、海に関する本に関しては、物心ついてからずっと読み漁っていた気はする。

ただ、それが航海士や地理学者、気象学者が読むようなレベルの本に到達するまでには、子ども向けの絵本や童話を繰り返し読んだり読んでもらったりしていた。

かといって、ロビンにそういう機会がなかったのかどうか、尋ねるのはためらわれた。

行くあても帰るあてもないと言ったロビンが、幼い頃に母親や父親を失っていれば、そういった機会がなかったことは容易に想像できるから。

ロビンの過去について興味がない、とはいえない。

できることなら、全部知りたい。

ロビンのことを、少しでもわかりたい。

でも、過去を思い出すことがロビンを傷つけたり、過去を語ることでロビンが苦しい思いをするのなら、知らなくてもいい、とは言えた。

ナミにとっては、ロビンがナミの前にいてくれることが一番重要だったから。

そしてできるなら、ありのままのロビンで、ナミの前で笑っていてほしい。


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