Side_Nami_4



デッキチェアを近づけたナミに、ロビンはゆっくりと視線を動かしたけれど、ナミを見たのはほんの一瞬で、すぐに視線は本へと落とされた。

別にロビンに「あんたのために測量を早く終わらせたのよ」と言ったわけではないし、言うつもりもないが、そんな態度を取られてしまうと、せっかく早く帰ってきたのにその扱いは何か、となんだか拗ねた気持ちになってしまう。

こうなったらもう、思う存分ロビンを観察するしかない、とナミは開き直って、隣に座るロビンに向き直り、その横顔をしげしげと眺めることにした。

でも、すぐ隣でその顔を観察しようと思っても、横顔の大部分をサイドの髪が隠していて、ナミがしげしげ見つめる邪魔をする。

ナミはロビンに手を伸ばして髪に触れ、耳にかけた。

見るからにさらさらのストレートの黒髪は、陽の光を吸収してあたためられて、いつもより心地よく手になじむ気がした。

「なあに?」

「別に。邪魔そうだなあって思っただけ」

ロビンは疑問の視線をナミの方に向けたけれど、ナミがそれ以上特に何も言う気がないと悟ったのか、再び視線を本に落とした。

こんなに完璧な人間は、そうそうお目にかかれない。

彫りの深い整った顔立ちからは、ロビンの生来の気質であろう穏やかさと知性がにじみでている。

長身だけれどきゃしゃな身体は抱きしめたときの繊細さを思わせると同時に、長くしなやかな四肢を見ていると、その腕に絡めとられたいとさえ思う。

ナミ自身も自分の容姿に引け目を感じたことはないけれど、ロビンは別格だ、と思う。

何事も人並み以上にこなし、それなのにおごったところがひとつもない。

自分にはわりと無頓着だけれど、他人を軽んじることはなく、問いかけには律儀に応える。

こんなに完璧なおとなのおねーさんが、実はとってもこわがりな子どもの心を持っているというのもまた、ロビンの魅力のひとつ。

そうして数えあげればきりがないけれど、しかし、何よりも瞳だ、とナミは思う。

海のような深さをたたえた、ロビンの瞳。

それはロビンの心そのものを映しているかのような、とてもとても、やさしい瞳だった。

ロビンの場合、今まで抱えてきたかなしさも、くるしさも、痛みも、傷も、全部いっしょくたになって混じりあったら、せつなくなるぐらいにやさしい心ができあがったのだと思う。

普通なら、そんなにかなしかったり痛かったりくるしかったりしたら、心は耐えかねてつぶれてしまって、つぶれたあちこちがトゲトゲとがり始めたり、ゆがみ始めたりして、他人を傷つけたり利用したりして身を守るようになっても不思議はない。

けれどロビンは、痛みに押し潰されるのではなく、全部自分の中に飲み込んで受け入れてしまう、そんなやわらかな心を持っていたのだろう。

だからロビンの心は、自分にそそぐやさしさすべてを疑ってかかるほどに臆病になり、傷だらけになってしまったけれど、誰かをむやみに傷つける力をふるうようにはならなかった。

ロビンの瞳はロビンの心を、そんな風にいつもナミに教えてくれる。

本に落としている真摯なまなざしも。

クルーたちを見る穏やかな視線も。

ナミに問い詰められて揺れる目も。

照れたときにうつむいて逸らされる、伏し目がちな瞳も。

全部全部、ロビンの声にならない心の声たち。

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