Side_Nami_3



名前が呼ばれた、と思って覚醒した意識。

自分のすぐ近くに気配があることに驚いたが、その気配が漂わせる香りが、かぎ慣れた花のあまい匂いだったから、ロビンだとわかった。

そのことに安心して、目を閉じたまま他の感覚を研ぎ澄ませると、風の音や獣の遠吠えぐらいしか聞こえなかったから、みなももう寝静まっているのだと知った。

だから、ロビンもすぐ隣に横になっているのかな、と思ったら、違っていた。

すぐそばにあった気配はどんどん近づいて、耳にロビンの吐息がかかる。

そのしっとりとしたあたたかさを耳に感じてしまったら、平然と寝たふりを続けることなんてできなくて、ナミは体をこわばらせてしまった。

そうしたら、ほんの少しだけロビンはその場にとどまったけれど、すぐに気配は遠のいて、ロビンが離れてしまったのがわかった。

たぶん、少し離れた隣に横たわったのだろう。

ロビンのことだから、ナミには背を向けて。

でも、それを確認することもできなかった。

ナミの心臓は胸郭をこぶしで叩くように打ちつけて、体中、脳みそまで血液がぐるぐると暴れまわって、息をするのが精一杯。

思考なんて完全停止。

瞳をあけるどころか、まぶたをぎゅうっと閉ざして、「しずまれ、しずまれ」と自分の心臓を説得し続けるのがやっとだった。

まして体を起こして、ロビンに先ほどの行動の意味を問うことなんてできなかった。

いったいどういうつもりだったのだろう。

わからないけれど、ロビンが何かを伝えようとしたことだけは確かだ。

しかもそれは、ナミが眠っているからこそ言える、ロビンの『ほんとう』の言葉に違いなくて。

思春期の男の子でもあるまいし、いったい自分は何をしているのかと情けなかった。

何か、ロビンには伝えたいことがあって、でもいつもは言えないから我慢して、押し込めて。

けれど、どんなにきつくふたをしたつもりでも、ときにふたの隙間からあふれ出すのが想いというもの。

だからロビンはたぶん、ナミを呼んだのだ。

声にならなかったとしても、「航海士さん」と小さく呼んだに違いない。

もちろん、あまりにも体に近づきすぎた気配が、ナミを目覚めさせた原因のひとつではあるだろう。

でも、それだけじゃなくて、自分はロビンの声をすくいあげることができたのだと、信じたい。

だからいっそう悔やまれる。

あんなにこわがりなロビンが、やっと自分からチャンスをくれて、ナミにそれは伝わったというのに。

とてもわかりにくいシグナルだけれど、それがロビンから送られたのならば、しっかりと受け止めて、時には増幅してさえ返すのがナミの役割。

それこそが、ロビンが少しずつでも『ほんとう』のことをナミたちに伝えられて、この船を……できることならナミ自身を、望んでくれる未来へとつながっていく階段なのに。

情けなくも自分は、どきどきしすぎて息をすることさえ危ういという、そんな初恋まっただなかの女の子みたいになってしまった。

他の誰かに恋をしたならそれでもいいのだろうけれど、ナミが想う相手は、とってもこわがりなロビン。

ナミが足を止め、手を伸ばし、耳を傾け問いかけることをやめてしまえば、それですべてがなかったことになってしまう。

ナミはどうしたってロビンが欲しいから、自分の方から止まるわけにはいかない。

ナミまでこわがりな女の子になってしまったら、この恋は動かないのだ。

悔しまぎれに、ロビンの隣に並べていたデッキチェアを、ゼロセンチまで近づけてみた。

あたしだって、いつもいつも、想いのたけで、あんたの名前、呼んでるのよ。

何度も、何度も、繰り返し。

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